個人再生の注意事項(清算価値等)

この記事は、個人再生の手続きで問題になる可能性のある清算価値について書いています。専門的な話となりますので、とくに興味のある方のみお読みください。

当事務所への個人再生の相談をご希望の方は、事前にご予約のうえご相談にお越しください。


個人再生の手続きを利用することで、借金の額を最大8割減額してもらうことが可能となります(住宅ローン特則を利用する場合の、住宅ローンを除く)。

たとえば、住宅ローン以外の債務が500万円である場合、再生計画にしたがって100万円の返済をすれば、残りの400万円についての支払いが免除されるわけです。

しかし、この計画弁済総額は、債務者が自己破産した場合に債権者が受けることができる予想配当額(清算価値)を下回ってはならないとされています。

簡単にいえば、その人が持っている財産の総額以上は、最低でも支払わなければならないということです。これを「清算価値保障原則」といいます。

清算価値は、生命保険や学資保険の解約返戻金や退職金見込額が高額である場合、不動産の評価額が住宅ローンの残額を超える場合などに問題になることが多いですが、それ以外についても裁判所から指摘を受けることが増えているように感じます。最近問題になったのは次のような事項についての清算価値です。

受任通知発送後の債権者に対する支払い

受任通知を発送した日以降の各債権者に対する弁済が偏頗弁済になる恐れがあるとして、偏頗弁済と認められる場合には、その弁済額を清算価値として計上するべきだとの指摘がありました(そのときは受任通知発送後の弁済はしていなかったので、実際に清算価値に計上することはありませんでした)。

個人再生のご依頼をいただいた場合、委任契約を締結した時点ですぐに債権者へ受任通知を発送します。このとき、住宅ローンを除く全債権者への返済を確実に停止するよう確認をしていますから、債務者本人が自らの意思で返済をすることは通常あり得ません。

受任通知後の債権者に対する支払いがあるとすれば、毎月の返済が銀行からの自動引き落としになっている場合が考えられます。こちらも、銀行に残高があったたために引き落とされてしまったり、または、新たに入金があった後に引き落としがかかってしまったようなケースです。

もちろん、そのようなことが起きないよう、委任契約締結の際には説明をおこなっていますが、実際に引き落としがされないように対応するのは債務者自身なので、時には受任通知後に引き落としがされてしまう場合もあります。

この場合に返金をしてくれる債権者もありますが、返金が受けられなかった場合には、偏頗弁済であるとして清算価値に計上しなければならないということになるでしょうか。

受任通知後の返済が問題になる場合として、依頼者本人からの申告が無かったために、一部の債権者に受任通知を送っていなかったということも考えられます。委任契約締結時には全ての債権者を申告してもらいますが、債務者本人が忘れていたとか、関係ないと思っていたというような理由で、後から債権者の存在が判明することもあります。

そのようなときに、受任通知の発送が漏れていた債権者への返済を継続してしまっていた場合に、偏頗弁済に該当するとみなされることもあるでしょう。受任通知後に多額の返済を継続していたことで、清算価値に影響の出るようなケースは稀でしょうが、確認はちゃんとしておくべきです。

同一家計の同居者の返済

夫が個人再生の手続きをすることになり、司法書士への依頼後は支払いを停止しているが、妻にも借金があるものの、債務整理等はおこなわず支払いを続けているというようなケースです。

夫婦共に支払不能であれば、夫婦同時に債務整理をおこなうべきであるのが通常ですが、一方のみ債務整理をすれば支払い可能との判断により、2人同時の手続きを避けたいとの希望もあります。また、どうしても妻の同意が得られないため、夫のみが個人再生をするしかないという場合もあるでしょう。

妻の返済額が、妻自身の収入の範囲内であれば清算価値の問題は生じませんが、妻の収入を超えて、夫の負担により返済した部分がある場合、その返済総額を清算価値に計上すべきだとの指摘を受けました。

月々の妻の返済額が、妻自身の収入を超えているのであれば、返済不能なのは明らかです。そうであれば、妻についても債務整理をおこなうべきであるのは当然ですが、妻の返済は比較的少額であるものの、出産や子育てなどで一時的に仕事をしていないというケースもあるでしょう。

そのような場合に、夫の収入により妻の返済をしていたとすれば、その返済の総額を清算価値に計上すべき場合があるということです。

清算価値の総額は、再生計画による計画弁済総額の決定に直結しますから、裁判所としては清算価値を厳格に捉えようとするのは当然のことでしょう。申立後になって、予想外に清算価値が増大してしまったということが起きないよう、債務者の状況を正確に把握することが重要です。

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