滅多にない事例かもしれませんが、公正証書で包括遺贈を受けた受遺者がいる場合で、遺言者死亡の後に法定相続人が相続放棄をしているときの相続についてのご相談がありました(ブログ記事にするにあたり実際のご相談の事例とは少し変えています)。

被相続人は公正証書遺言により、相続人である子へは相続させ相続人ではない孫には包括遺贈するという遺言をしていました。下の図のとおり、二男Cと長女Dにそれぞれ3分の1ずつ相続させ、事情により長男Bには相続させない代わりに、Bの子であるEへ3分の1を包括遺贈したわけです。

相続放棄により包括受遺者の相続分は増えるのか

その後、遺言者の死亡により遺言の効力が生じたのですが、二男Cが家庭裁判所で相続放棄の手続きをしてしまいました。この場合、誰がどれだけの遺産を承継する権利を持つことになるのでしょうかとのご相談です。

相続放棄した人の相続分は誰に?

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなすとされています(民法939条)。

よって、本例では長男Bと長女Dが相続人であることになります。Bは遺言によっては相続分を与えられませんでしたが、相続人であることには変わりありませんから、当然に相続分があります(なお、相続放棄により代襲相続が生じることはありませんから、二男Dに子がいたとしても相続人になることはありません)。そして、2人の相続分は2分の1ずつです。

ただし、遺言により、長女Dが3分の1を相続し、長男Bの子Eは3分の1の遺贈を受けているのですから、二男Cが相続放棄してもこの権利については影響を受けることはありません。

したがって、遺言により二男Cに相続させるとされていた3分の1について、相続人がその相続分に応じて権利を持つことになるので、長男Bと長女Dが6分の1ずつを相続します。Cが相続放棄したことにより、遺言によれば相続分が無かったはずのBへ相続分が行くこととなったわけです。

そして、Eは相続人ではありませんから、相続人が相続放棄をしても、それにより包括遺贈を受ける割合が増えることはありません。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)とされていますが、そもそも相続人ではないのですから相続分も無いのは当然です。

結局、遺産に対する権利の割合は、長男Bが6分1、長女Dが6分の3、子Eが6分の2だということになります。

子Eが全財産の遺贈を受けるには?

もともと二男Cが相続放棄をしたのは、子Eに全財産を承継させたいとの意図があったようです。しかし、本例で長女Dもそれに賛同して相続放棄したとすれば、長男Bが唯一の相続人になるのであり、Eが全財産を承継するとの結果にはなりません。

子Eが全財産を承継するためには、被相続人Aが「全財産をEに包括して遺贈する」との遺言をするなど生前に対策をしておく必要がありました。そうでなければ、いったんは相続人が相続した上で、Eに対して贈与するなどの方法によらなければ、Eが全財産を承継することはできません。

また、二男C、長女Dと共に長男Bも相続放棄したとしても、やはりEが全財産を承継することにはなりません。相続人の全員が相続放棄してしまったとすれば、家庭裁判所で相続財産管理人の選任をしてもらい、最終的には、民法255条の規定により共有者であるEに持分が帰属するということも考えられますが、あまり現実的でないでしょう。

共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する(民法255条)。

さらにいえば、被相続人Aが、長男Bには相続させないとの強い意思を持っていて、推定相続人の廃除をしていたとすれば話は違ってきます。この場合、EはBを代襲相続することになりますから、C、Dが相続放棄をすれば、Eが全財産を承継できることとなります。

ただし、推定相続人の廃除も被相続人が生前に、または遺言によらなければ行うことができませんから、被相続人の死亡後に検討しても意味がありません。