住宅ローンの返済が終わったときには抵当権抹消の登記をします。以下は、専門的な内容が多く含まれているので、一般的な解説については松戸の高島司法書士事務所による抵当権抹消登記のページをご覧ください。

抵当権抹消登記の一括申請の可否

抵当権の抹消登記をおこなう際、同一の債権を担保する抵当権が2つ以上の不動産に設定されている場合には、1件の登記で一括して抹消登記申請をするのが通常です。

わかりやすい例でいえば、住宅ローンの借入をする際、土地と建物に抵当権が設定されたとします。その後、住宅ローンの完済にともなって抵当権抹消登記をするときには、1件の登記申請により土地、建物の抵当権を抹消できるわけです。

ここまでは、土地と建物それぞれに1つずつ設定されている抵当権を抹消するときのお話でしたが、次に、1つの不動産に対して複数の抵当権が設定されている場合について考えます。

1つの不動産に複数の抵当権が設定されている場合

1つの不動産に設定されている、同一の権利者のために設定された2つの抵当権について、抹消の原因および日付が同一であれば、1件の登記で一括して抹消登記を申請することができます。この場合、登記申請書の記載では、原因、権利者、義務者が複数の抵当権について同一であるわけです。

よくある例では、次のとおり「1番(あ)」、「1番(い)」のように同順位で複数の抵当権が設定されているケースです。この場合、抵当権抹消の原因および日付が同一であれば、同一の申請により一括して抹消登記ができるわけです。この場合の登記の目的は「1番(あ)、1番(い)抵当権抹消」のようになります。

1番(あ)、1番(い)抵当権抹消

この場合でも2件の登記で申請することも可能です。もしも、2件の申請によるならば、登記の目的はそれぞれ「1番(あ)抵当権抹消」、「1番(い)抵当権抹消」となります。それでは、なぜ1件の登記で一括して申請するのかといえば、登録免許税が節約できるのが最大の理由でしょうか。

抵当権抹消登記では、1つの申請ごとに、不動産1つあたり1,000円の登録免許税がかかります。そこで、上記の場合に「1番(あ)抵当権抹消」、「1番(い)抵当権抹消」の2件で登記申請をすれば、それぞれに1,000円ずつ、合計2,000円登録免許税がかかります。

ところが、同一申請により一括して抹消登記をすれば、2つの抵当権を抹消するのに登録免許税が1,000円で済むのです。抵当権が設定されている不動産の個数が多ければ、登録免許税の額に大きな違いが生じることになります。

同一申請により一括して抹消登記できる場合

申請情報(登記申請書)は、登記の目的及び登記原因に応じ、1の不動産ごとに作成するのが原則ですが、一括申請できる場合について次の規定があります。

・不動産登記令 第4条

申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。

・不動産登記規則 第35条

不動産登記令第4条 ただし書の法務省令で定めるときは、次に掲げるときとする。

(1~9 省略)

10 同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記が、同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権に関する登記であって、登記の目的が同一であるとき。

また、下記の質疑応答も参考になります。

設定者を異にする根抵当権設定仮登記の抹消の申請は、同一の申請書で申請することはできない(登研594号)。

甲所有のA・B物件を共同担保として抵当権設定の登記をした後、B物件について乙に所有権移転の登記がされている場合であっても、当該抵当権の抹消を同一の申請書で申請することができる(登研558号)。

1個の不動産につき同一の権利者のためにされた数個の抵当権及び根抵当権の設定の登記を抹消する場合において、抹消の原因及びその日付が同一であれば、同一の申請書で抹消の登記を申請することができる(登研434号)。

同一不動産上に設定された債権者を同じくする数個の抵当権の登記の抹消を申請する場合、登記原因及びその日付が同一であるときは、同一の申請書ですることができる(登研401号)。

同一不動産上に設定された債務者を同じくし、抵当権者を異にする数個の抵当権の登記の抹消を申請する場合、登記原因及びその日付が同一(形式的に)であっても、同一の申請書ですることはできない(登研421号)。