2017年9月25日付の日経新聞に、次のとおり「AI時代のサムライ業」と題した記事がありました。野村総合研究所が2015年12月に発表した研究結果を取り上げており、それによれば「10~20年後に、日本の労働力人口の約49%が技術的に代替可能」だとのことであり、定型業務が多い士業も例外ではありません。

AI時代のサムライ業(上)代替の危機 新事業に挑む 弁理士、商標サイトで起業/司法書士、M&Aなど仲介も
人工知能(AI)の利用が広がるにつれ、弁護士や弁理士など企業法務に関わる士(サムライ)業が「定型的な独占業務はAIに取って代わられかねない」と危機感を強めている。起業して新事業を始めたり、いち早くAIを取り入れたりするなど、業務の見直しに取り組む動きも出始めた。

上記の研究結果によれば、司法書士のAIによる代替可能性は78.0%となっています。この%の解釈の仕方がよく分かりませんが、司法書士業務の78%がAIに置き換えられるという解釈でよいのでしょうか。司法書士は現在の20%位の人数がいれば十分であり、残りの80%は不要であると。

司法書士以外は、弁理士92.1%、行政書士93.1%、公認会計士85.9%、税理士92.5%など軒並み司法書士を大幅に上回っています。90%がAIに代替されるとなれば、今後は急速に職業として成り立たなくなっていくのでしょうか。10年でそのような状況になるとはさすがに信じられませんが、20年も経てばたしかにあり得そうにも思えます。

ところで、士業の中でも弁護士のAIによる代替可能性は1.4%、中小企業診断士は0.2%とされています。中小企業診断士の場合には定型業務などあまり存在しないでしょうから当然だとして、弁護士も他と比べて極端に低くなっています。

業務が多少なりとも重なっている司法書士が78.0%なのに対して、弁護士が1.4%とはあまりにも差がありすぎるように感じます。司法書士と競合するような定型業務は一切取り扱わないのであればたしかにそうなのかも知れませんが。

登記手続はAIに代替可能なのか

上記記事の結びには『定型的な独占業務によって安泰とみられてきたサムライ業。皮肉にも、その業務こそがAIの草刈り場となっている』とあります。今後はその可能性があるとしても、司法書士業務については現時点で「AIの草刈り場」となっている事実はありません。

以下、登記手続はAIに代替可能なのかについて考えてみます。

不動産登記手続の実務は、法律等による規定に加えての膨大な判例や先例により成り立っています。AIが急速に進展していけば、AI自身が登記業務の全てを一瞬にして学び自分のものとしてしまうのでしょうから、司法書士の知識など必要が無くなってしまうのかも知れません。

そうなれば、司法書士が作成した登記申請書やその添付書類を、法務局の登記官が審査する必要も無くなるはずです。仮に審査するとしたら、AIによりおこなわれた申請を法務局のAIが審査することになりますが、そもそもAIがおこなう業務は正しいのが前提なのでしょうからそれを審査する意味がありません。

過渡期においては、登記先例や判例の調査をAIによりおこなえるようになれば、登記業務を迅速におこなうのに役立つでしょう。イメージとしては司法書士が使用している不動産登記業務システムにAIが利用されるような感じでしょうか。司法書士がごく簡単な指示を与えるとただちに申請書などが完成するという具合です。

それでも、完全自動化されるまでは司法書士によるチェックが必要ですし、もし、間違っていた場合には申請をおこなった司法書士が責任を負うわけです。このあたりは自動車の自動運転と同じです。運転者が自己の責任を負う段階から、完全自動運転が実現したときにはシステムが全ての責任を負うことになる訳です。

AIによる不動産登記システムも完全自動化されれば司法書士によるのチェックは不要になります。そのときは、登記手続において司法書士はほとんど不要になるのかも知れません。

そんな未来が本当に来るのかについては、私の理解の範囲を完全に超えているので何とも言えません。けれども、AIの利用が本格的に始まったときには、その便利さを喜んでいる間もなく人間の仕事が一気に奪われていくのでしょうか。そうなれば、司法書士の仕事が無くなるかなど些細な問題すぎることのようにも思います。

AI時代のサムライ業についてあれこれ頭を悩ませていても、その時が来た途端にAIに飲み込まれていくのだとしたら、今の時点で考えても意味が無いようにも感じてしまいます。個人的な話としては10年後はまだ仕事をしているはずですが、20年後には悠々自適な生活を送っていたいものです。

したがって、私個人としてはうまく逃げ切れるかどうかという感覚でもあるのですが、そんな悠長なことを考えていられるのも今のうちなのかも知れません。なんにせよ、激動の時代はすぐそこまで迫っているようです。