親が子に対して、親子の縁を切ろうとするのを、「勘当する」ということがあります。親が子を勘当した場合に、勘当された子の相続権が失われるようなことがあるのでしょうか?

1.勘当された子の相続権は?

勘当するとの表現が使われるのは、古い時代にあった制度の名残です。

江戸時代には、悪行のある子に対して親が勘当を宣言し、町年寄や奉行所の帳簿に勘当の届出が記録されると、親と子の縁が絶たれ、財産の相続権も失われるという効果が生じました。

今でも「親に勘当された」というように言葉として使われることがありますが、現在の法律では、親が子を勘当することによって親子の縁が切れたり、子の相続権が失われるようなことはありません。

養子であれば離縁することで親子関係はなくなりますが、実の親子の関係が終了するのは死亡したときのみで、生存中に親子の縁を絶つ方法はありません。

2.推定相続人の廃除

よって、子が親に対してどのような仕打ちをしたとしても、親子の縁を切ることはできないのですが、特別な事情がある場合には、相続人としての権利を失わせることができる、推定相続人の廃除の制度があります。

民法892条(推定相続人の廃除)

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

推定相続人の廃除は、被相続人が生前におこなう方法と、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をする方法とがあります。いずれの場合であっても、家庭裁判所へ推定相続人の廃除の審判申立てをし、廃除の審判がされなければ効力が生じません。

また、推定相続人の廃除ができるのは、「被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人にその他の著しい非行があったとき」に限られており、子が親の言うことを聞かないなどの理由で廃除することはできません(推定相続人の廃除について詳しくはこちらをご覧ください)。

3.生前贈与・遺言による方法

推定相続人の廃除が認められないような場合であっても、特定の子に遺産を相続させないようにする方法として、財産を生前贈与してしまったり、遺言で指定した人のみに財産を相続させることが考えられます。

たとえば、子が2人いたとして、1人の子に全財産を相続させてしまうわけです。生前贈与や遺言による相続であれば、自らの意思によっておこなうことができ、裁判所などの許可を得る必要はありません。

ただし、兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の相続権としての遺留分が認められています。被相続人が生前贈与や遺言によりおこなった財産の処分が遺留分を侵害しているときには、侵害された遺留分を取り戻す権利があります(これが、遺留分減殺請求権です)。

遺留分減殺請求権が行使されたときには、その請求に応じざるを得ないことにはなりますが、何もしておかないよりは自身の意思に沿って遺産を相続させることができるかもしれません。

親が子を勘当するような事態が生じないのに越したことはありませんが、親が特定の子に相続させないようにするために何ができるのか、いざというときの法律知識として知っておくのは無駄ではないでしょう。