(最終更新日:2020年10月14日)

相続法の改正により、「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言(特定財産承継遺言)があったときには、遺言執行者は、その共同相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」と定められました。

これにより、特定の人に特定の不動産を「相続させる旨の遺言」があり、かつ、遺言執行者がある場合には、対抗要件を備えるために必要な行為として、遺言執行者が申請人となり相続登記の申請をおこなえることとなりました。

この場合に、司法書士に相続登記の依頼をするときには、遺言執行者が司法書士への委任状に署名押印するということです。

相続法改正の以前は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言により、被相続人の死亡とともに相続により当該不動産の所有権を取得した場合には、その相続人が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではないとされていました(最判平成7年1月24日)。

登記実務においても、遺言執行者には「相続させる旨の遺言」についての登記手続きをする義務も権利もないとされていましたつまり、遺言執行者には登記申請の権限がないということです。

それが、相続法改正により、対抗要件を備えるために必要な行為として、遺言執行者に相続登記申請をする権限があるものとされたのですから、遺言執行者の義務として速やかに手続きをおこなう必要があるわけです。

なお、改正法が適用となるのは、「令和元年7月1日以降にされた特定の財産に関する遺言」に係る遺言執行者によるその執行です(改正法附則8条2項)。改正法の施行日(令和元年7月1日)前にされた遺言については適用されませんので、遺言書の作成日をまず確認する必要があります。

民法1014条第2項 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

遺言の執行をおこなう際には、相続法の改正により、遺言執行者に遺言内容の通知義務が課せられるようになったことにも要注意です。

民法1007条2項 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

また、相続させる旨の遺言による登記申請とは別の話ですが、相続法の改正により「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる」との規定ができました(民法1012条2項)。

相続法の改正前から、遺贈による所有権移転登記については、遺言執行者が登記義務者となり登記申請をすることができましたが、改正により、遺言執行者が選任されている場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができるものとされたのです。

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