相続登記に関連する先例・質疑応答などを集めてみました。司法書士高島一寛が自身で閲覧するために作成するものなので、参考にしていただくのは構いませんが、内容に誤りがあったとしても一切の責任を負いませんしご質問等も承っておりません。あくまでも自己責任でご利用ください。

千葉県松戸市の高島司法書士事務所(松戸駅東口徒歩1分)への相続登記(相続による不動産の名義変更)手続きのご依頼をお考えの方は、相続登記のページをご覧ください。


最終更新日:2025年6月9日

遺産分割協議書には相続人全員が署名および実印による押印をし、印鑑証明書を添付する必要がある。しかしながら、不動産を取得する相続人については、印鑑証明書の添付が不要であるとの先例などがある。

相続人A、B、Cの全員が不動産を特定して、これが物件をAが承継取得する旨の遺産分割協議書を作成し、B、Cは印鑑証明書付き実印を押印しているが、Aは認印で印鑑証明書の添付がない場合でも、遺産分割による相続登記申請書に添付すべき遺産分割協議書となる(登研429号121頁)。

Aが単独で不動産を取得する旨の遺産分割協議書による相続登記の申請をする場合、Aの印鑑証明書は添付不要。

当事務所では、相続人中の一人が単独で不動産を取得する場合については、印鑑証明書の添付は不要であるものとして登記申請をおこなっていた。

ただし、登記申請の添付書類としては不要であるとしても、遺産分割協議書へは相続人の全員が実印による押印をし、相続人全員に印鑑証明書を提出してもらうのが大原則である。

共同相続人A・B・C・D間の遺産分割協議により、甲物件をA(持分3分の1)、B(持分3分の2)の共有とした場合、Aが単独で当該物件についての相続による所有権移転登記の申請をすることができる。この場合において、申請書に添付する遺産分割協議書には、C及びDのほかBの印鑑証明書も添付すべきである(登研553号134頁)。

上記の質疑応答によれば、遺産分割協議により相続人中の一部が不動産を共有により取得する場合であっても、申請人となる相続人の印鑑証明書は不要だと解釈できる。

この場合に、AとBの2人が申請人となる場合、AとBの2人とも印鑑証明書の添付が不要であるということだろうか。

結論は不明であるものの、当事務所では上記の場合には、相続人全員の印鑑証明書を必ず添付している。印鑑証明書の添付が省略できるのは、単独で不動産を取得した相続人についてであると考えるからだ。

上記と同様に考えているものとして、【改訂版 わかりやすい相続登記の手続】(日本法令)に、「印鑑証明書の添付を省略できるのは、単独相続した場合の申請人に限定すべき」との記述がある。

ただし、上記の書籍でも、結論としては「遺産分割協議書には原則どおり協議者全員が実印を押して印鑑証明書を添付するのが無難でしょう」と書いている。

また、【登記官からみた相続登記のポイント】(新日本法規)でも、登研429号121頁の質疑応答を引用したうえで、「実務上、これによって処理される例も見受けられますが、疑問があるところです」としている。

なお、上記書籍(改訂版わかりやすい相続登記の手続)によれば、下記先例(昭和30年4月23日民事甲742)の解釈により、多くの文献では、「申請人を除く他の遺産分割協議者は印鑑証明書の添付を要する」と解し、ここから、申請人は印鑑証明書を添付省略できると解しているものが多いというように書かれている。

これが、申請人は印鑑証明書を添付省略できることの根拠であるというのは、今さらながらかなり強引な気もするがいかがなものだろうか。

標記の件に関し、別紙甲号のとおり高知地方法務局長から照会があつたので、別紙乙号のとおり回答したから、この旨貴管下登記官吏に周知方しかるべく取り計らわれたい。
(別紙甲号)
 左記事項について取扱上疑義がありますので何分の御垂示をお願いします。

一、印鑑証明書の要否について。
(イ)遺産分割協議書を添附して、相続による所有権移転登記の申請があつた場合に、その遺産分割協議者の印鑑証明書の提出を要しますか。
(ロ)共同相続人甲、乙のところ、乙が民法第903条第2項により相続分がない旨の証明書を添附して、甲より相続による所有権移転登記の申請があつた場合に、乙の印鑑証明書の提出を要しますか。
(ハ)右(イ)(ロ)とも、その印鑑証明書の提出を要すとせば、これを提出しないときは、不動産登記法第49条第8号により却下の原因となりますか。

参照
 不動産登記法施行細則第42条。
 昭和28年8月10日民甲第1392号民事局長回答。
 登記研究第67号40頁1303。
 同第72号39頁1362。
 同第77号31頁決議問題(桝田出)同33頁決議問題(小松支)。
 同第79号43頁1492。

(別紙乙号)
 昭和29年10月1日付日記登第289号で照会のあつた標記の件については、いずれも積極に解すべきものと考える。