数次相続が生じている場合の相続登記で、死亡している相続人中の1人が相続人不存在の状態になっているときの手続きについてです。
実際の相続関係はもっと複雑でしたが、この記事では説明しやすくするため簡略化しています。
当事務所で実際に取り扱い、登記が完了している事件をもとにしていますが、異なる裁判所及び法務局の場合には、同様の手続きになるとは限りません。あくまでも1つの例として捉えるようにしてください。
相続財産清算人による相続分譲渡からの相続登記(目次)
1.相続財産清算人選任の申立て
次のような相続関係であるのを前提にして解説をおこないます。
- 昭和55年、被相続人Aが死亡したときの相続人は、妻B、長男C、長女D、二男Eの4人。
- 昭和60年、妻Bが死亡したときの相続人は、長男C、長女D、二男Eの3人。
- 平成30年、長男Cが死亡したときの相続人は、長男の妻F、長女D、二男Eの3人。
- 令和5年、長男の妻Fが死亡したときの相続人は、Fの兄弟姉妹及びその代襲者だったが、その全員が相続放棄。
上記により、長男の妻Fが相続人不存在の状態となっているため、当事務所で書類作成をし相続財産清算人選任の申立てをおこないました。
2.相続財産清算人による相続分譲渡
相続財産清算人には、弁護士が選任されました。その後は、相続財産清算人により手続きが進められるのを待つことなります。
そして、相続財産清算人から、次のように手続きを進めたいとの連絡がありました。
- 相続財産清算人により、相続財産法人の相続分全部を、相続人中の1人に無償譲渡する。
- 上記の譲渡をした後に、他の相続人のみにより遺産分割協議を成立させ、相続登記の申請をする。
他の相続人への無償譲渡により手続きを進めるられることとなったのは、相続財産がごく低額の不動産のみであったとの事情によるのだと思われます。
相続財産清算人が相続分の譲渡をするためには、裁判所への権限外行為許可の申立てが必要です。
権限外行為許可の審判がなされた後に、相続財産清算人と、相続人中の1人との間で、相続財産法人の相続分全部の無償譲渡をし、その旨の相続分譲渡証明書を作成します。
司法書士である私が相続分譲渡証明書(案)を事前に確認し、上記のとおりで問題ないことを相続財産清算人にお伝えした後に、実際の手続きが進められました。
その後、当事務所で相続登記の申請をおこない無事に完了しています。
登記申請の際には、通常の遺産分割協議による相続登記の必要書類に加え、下記のような書類を提出しています。
- 相続財産清算人選任の審判書(謄本)
- 権限外行為許可審判書(謄本)
- 相続財産清算人の印鑑証明書(家庭裁判所書記官発行)
- 相続分譲渡証明書
3.民法第255条の規定による共有持分の帰属を検討
今回は上記の手続きにより、無事に相続登記が完了していますが、当初は、特別縁故者の不存在が確定することこで、民法255条により相続財産法人の持分が他の共有者に帰属するのを待つしかないかとも考えていました。
なお、これ以降は実際に手続きをおこなっているわけではなく、当初検討していた手続きとなりますのでご注意ください。
上記のとおりであれば、登記手続きは下記のとおり進めることになりそうです。
- 法定相続による相続登記
- 相続人不存在である相続人の持分について、相続財産法人の名義にする所有権登記名義人氏名変更の登記
- 特別縁故者不存在確定を原因とする、他の相続人への持分全部移転登記
さらに、相続人中の1人の名義にするには、遺産分割を原因とする「○を除く共有者全員持分全部移転」によることが可能でしょうか。
相続人の数が少なければ、上記のとおりの手続きであっても、それほど手間はかからないかもしれません。
しかし、当事務所で取り扱ったような何度も数次相続が生じている場合には、法定相続による相続登記を繰り返しておこなうだけでも大変です。
結局は、相続財産法人の持分全部を他の相続人に譲渡したことで、1回の登記手続きのみで済んだわけですが、ここに至るまでにはかなり頭を悩ませ非常に神経を使う手続きとなりました。
関連情報
相続財産清算人が選任された後におこなう、「亡○○相続財産」名義に変更するための、所有権登記名義人氏名変更の登記について。
相続人不存在による所有権登記名義人氏名変更と、その前におこなう必要がある、被相続人への相続を原因とする所有権移転登記について。
被相続人である死亡者のためにする、相続による所有権移転の登記について。
相続人不存在の場合の、特別縁故者不存在確定を原因とする、共有者への持分全部移転登記について。