遺言により推定相続人に対して遺産を相続させようとする場合、「相続させる」旨の遺言がされます。具体的には次のような遺言の条項となります。

第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の土地を長男B(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる

所在 松戸市松戸本町
地番 100番地1
地目 宅地
地積 100.00平方メートル

平成18年○月○日

千葉県松戸市松戸100番地
遺言者 甲 (印)

※本遺言例は、記事での解説に必要な事項のみ抜粋しています。

このような遺言がある場合に、「相続させる」とされた推定相続人が、遺言者よりも先に死亡した場合、代襲相続は生じるのでしょうか。

遺言と代襲相続

相続関係は上図のとおりです。遺言者甲は平成18年に上記遺言書を作成し、長男Bに土地を「相続させる」旨の遺言をしましたが、その後、平成20年に長男Bが死亡しています。

この場合に、長男Bの子であるDが、Bの代襲者として土地を相続できるのかが問題です。

相続させるとの遺言で代襲相続は生じない

結論から申し上げれば、「相続させる」旨の遺言により遺産を取得するとされた人が、被相続人より先に死亡した場合、「先死した人の代襲相続人に遺産を相続させる旨の意思」を遺言者が有していたと見るべき「特段の事情」のない限り、効力は生じないというのが実務上の一般的な判断基準です。

「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である(最高裁判所平成23年2月22日判決)。

なお、特段の事情があったとして、「代襲相続人に相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当である」と判断された裁判例(東京高等裁判所平成18年6月29日判決)もあります。

この例では、遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が死亡した後に、遺言者が、自筆で孫に代襲相続させる趣旨の遺言書を作成していたという事情があります(ただし、押印はしておらず有効な遺言書としては完成していませんでした)。

代襲相続に関する規定が適用されるというためには、上記のような特別な事情の存在が求められるわけです。

代襲者に相続させるための予備的遺言

上記の相続関係で、遺言者よりも、遺言者の長男Bが先に死亡した場合に、遺言者の孫であるDに相続させるために、予備的遺言をしておくことが有効です。たとえば、次のような条項例となります。

第○条 遺言者は、遺言者の長男Bが遺言者の死亡前に死亡したときは、第○条に定める土地を遺言者の孫D(平成○年○月○日生)に相続させる。

上記のような遺言をしておけば、代襲相続が生じるかどうかは関係ありませんから、確実に孫へ遺産を相続させることが可能となります。