自筆証書遺言の作成方法については、民法で次のとおり定められています。

第968条(自筆証書遺言)

 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない

2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

つまり、法的に有効な自筆証書遺言であるといえるための必要条件は、「遺言者が、遺言の全文、日付および氏名を自書すること、そして、その遺言書に押印すること」です。

それでは、遺言書に押印がされていない場合、その遺言書は絶対に無効なのでしょうか?

自筆証書遺言に押印がないと絶対に無効なのか(目次)
1.押印はないが、指印が押されているとき
2.遺言書自体には押印がないが、封筒に押印がある場合
3.封筒に押印があるが、検認時にすでに開封されていた場合

1.押印はないが、指印が押されているとき

遺言書に押す印鑑には制限がありません。また、印鑑を使用せず、拇指(ぼし、おやゆび)や、その他の指で押捺したものでも有効だとされています。

自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法968条1項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りるものと解するのが相当である(最高裁平成1年2月16日判決)。

ただし、指印では遺言者本人のものであることの立証が困難な場合が多いはずです。そこで、これから遺言書を作成するのであれば、実印や銀行届出印など本人のものであることの確認が容易なものを使用すべきだといえます。

2.遺言書自体には押印がないが、封筒に押印がある場合

遺言書自体には押印がないが、遺言書が入れられている封筒の封じ目に押印がされている場合に、自筆証書遺言の要件を満たしていると判断された事例があります。

遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法968条1項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない(最高裁平成6年6月24日判決)。

この最高裁判決の事例では、遺言書が書簡(手紙)の形式となっているのが重要な点です。全文を直筆して、日付及び署名をしているものの、その遺言書(手紙)には押印がありません。しかし、その手紙を入れた封筒の封じ目に押印をしていたのです。さらに、この遺言書(手紙)を郵便局から郵送しています。

上記判決では、この遺言書が遺言書が書簡形式であったことも重視されていると考えられ、ただ封筒の封じ目に押印しているというだけでは、必ずしも自筆証書遺言の要件を満たしていると判断されるとはいえません。

3.封筒に押印があるが、検認時にすでに開封されていた場合

この事例では、文書自体には、遺言者の署名も押印もありません(日付の記載はあり)。しかし、その文書が入っていたと思われる封筒の表には「遺言書」と書かれ、裏面には遺言者の氏名が書かれ、押印がされています。

このような場合でも、その文書と封筒とが一体のものとして作成されたと認めることができるのであれば、本件遺言を自筆証書遺言として有効なものと認め得る余地があるとの裁判例があります。

本件封筒には、表に「遺言書」と記載され、裏面に亡Aの氏名が記載され、「A」名下の印影が顕出されており、亡Aが本件封筒に署名して押印し、かつ、本件文書と本件封筒が一体のものとして作成されたと認めることができるのであれば、本件遺言は、亡Aの自筆証書遺言として有効なものと認め得る余地がある(東京高裁平成18年10月25日判決)。

ただし、この高裁判決の事例では、遺言書の検認をする時点で、すでに封筒が開封されていました。そのため、「本件文書と本件封筒が一体のものとして作成されたと認めることができない以上、亡Aが本件封筒の裏面に署名し、その意思に基づいて押印したかどうかを問うまでもなく、本件文書には亡Aの署名及び押印のいずれをも欠いており、本件遺言は、民法968条1項所定の方式を欠くものとして、無効である」との判断がなされています。