(2017/7/19 追記)
平成29年5月29日から,全国の登記所(法務局)において、各種の相続手続きに利用することができる「法定相続情報証明制度」が始まりました。

この記事で書いている法務局の証明書は、正式名称が「法定相続情報一覧図」となりました。詳しくは、千葉県松戸市の高島司法書士事務所による「法定相続情報一覧図の作成」のページをご覧ください。

以下は、2016年7月5日付の朝日新聞デジタル記事に基づいて執筆したものです。

相続情報の証明、新制度で省力化 証明書1枚で手続き可

相続情報の証明、新制度で省力化 証明書1枚で手続き可(2016年7月5日 朝日新聞デジタル)

相続の権利を持つ人(相続人)全員の氏名や本籍などの情報をまとめた証明書を発行する制度を法務省が始める。これまでは不動産や預金を相続する際、各地の法務局や金融機関にそれぞれ全員分の戸籍などを提出する必要があったが、一度必要な書類をそろえて法務局に提出すれば、以後は証明書1枚で足りるようになる。

今日の朝刊各紙で報じられていますが、この朝日新聞による記事には証明書のイメージも掲載されていて分かりやすいです。

この新制度は、法務局が発行する証明書があれば、相続手続きをする際に金融機関等への戸籍の提出が不要になるというものです。

相続手続きでは、相続人のすべてを明らかにするために、被相続人の出生から死亡に至るまでの連続したすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本などを、手続きする金融機関に提出する必要があります。

新制度によれば、上記の戸籍等に変わって、法務局が発行する証明書を提出すればよくなるわけです。そうであれば、新制度により相続手続きが大幅に省力化されるかといえば、あまり変わらない場合が多いように思います。

なぜなら、新制度においても揃えるべき戸籍謄本等の内容は全く同じだからです。戸籍等を1度集めて法務局に提出して、証明書の発行を受ければ、後の手続きにおいては戸籍等を提出する必要が無いというだけです。

一般に相続手続きが大変だというのは、おもに上記の戸籍等を収集する労力のことを指しているのだと思われますが、この手間については新制度においても変わらないのです。

戸籍等は原本還付が受けられます

記事では「各地に散在する不動産を相続する場合、手続きの煩雑さから、特に資産価値の低い土地では名義が書き換えられないケースがあった」という例が挙げられています。これが、新制度の証明書を利用すれば、簡単に名義書換が可能になるというわけです。

しかし、少なくとも司法書士に依頼して相続登記をする場合でいえば、新制度になったから相続登記がしやすくなるなどということはありません。

現行制度において、相続登記をする際は、必要な戸籍等の原本の全てを法務局へ提出しますが、登記完了後にはそのすべてを返却してもらえます(このことを、戸籍等の原本還付といっています)。

そのため、最初に必要な戸籍等を1通ずつ集めれば、複数の法務局で手続きをする場合でも、同じ戸籍等を順番に提出していけばよいだけです。各地に散在する不動産であっても、法務局とのやり取りは郵送でおこなえますから、順番に手続きをしていけば用が足ります。

新制度では、上記の戸籍等に変えて証明書を提出すれば済むわけですが、現行制度においても一まとめにした戸籍等を法務局へ提出し原本還付を受けるだけなので大差はありません。強いていえば、多くの戸籍等を送らないで済むようになる分だけ郵送料が節約できるくらいのことであり、資産価値の低い土地の名義書き換えが容易になることとは無関係です。

誰にとっての省力化なのか

ただ、金融機関や証券会社などにとっては、担当者が戸籍を確認する必要が無くなるので、大幅に手間が省けることになるでしょう。法務局による証明書があれば、金融機関が自己の責任で相続人を確定させる作業は不要になります。

しかし、手続きをする相続人にとっては、証明書が複数あれば別々の金融機関等での手続きを1度に進められるとか、多数の戸籍等を毎回提出しなくて済むとか、その程度でしょうか。

それに比べて、法務局の仕事量は激増するはずです。司法書士などの専門家が法務局へ行って手続きするならば、必要な戸籍等が揃っているのが前提ですから、法務局の負担は大きくありません。しかし、一般の方が戸籍等を持って法務局へ行くようになれば、必要書類の収集の仕方を説明する作業に忙殺されるに違いありません。

制度の詳細が分からないので想像に過ぎませんが、戸籍等の収集の手間が変わらない以上は、新制度になったからといって大幅な省力化が図れることにはならなそうです。