配偶者や子、兄弟姉妹など法律上の相続人に当たる人がいないため、身の回りの世話をしてくれていた遠縁の人へ、全財産を遺贈するとの遺言をしていました。この遺言に基づき、不動産など遺産の名義を変更するにはどうしたらよいのでしょうか。

この場合、遺言書の中で遺言執行者の指定をしていれば、その遺言執行者により手続きをおこないます。具体的には、不動産の名義変更(遺贈による所有権移転登記)であれば、受遺者(遺贈を受けた人)が登記権利者、遺言執行者が登記義務者として手続きをおこないます。

遺言により遺言執行者の指定をしていなければ、家庭裁判所へ遺言執行者選任の申立てをして、選任された遺言執行者により手続きをおこなうことになります。

相続財産管理人の選任は必要ないのか?

法律上の相続人が存在しない場合、相続人不存在として、相続財産管理人により相続財産の管理や清算がおこなわれることとなっています。

そうであれば、今回のケースのように「遺産全部の包括遺贈」を受けた人がいる場合であっても、まずは、相続財産管理人による遺産の配当清算をした後でなければ、遺贈を受けることができないのではないかという疑問が生じるかもしれません。

このことについて、平成9年9月12日の最高裁判決により『遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法951条にいう「相続人のあることが明かでないとき」には当たらないものと解するのが相当である』とされています。そして、判決中でその理由として次のような判断が示されています。

民法951条から959条までの民法第5編第6章(相続人の不存在)の規定は、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合におけるその管理、清算等の方法を定めたものであるところ、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(同法990条)、遺言者の死亡の時から原則として同人の財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合には前記各規定による諸手続を行わせる必要はないからである。

よって、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合には、相続人不存在の規定は適用されず、ただちに遺言執行者から遺産全部の引き渡し等を受けることができるわけです。

なお、上記判例は「相続財産全部についての包括遺贈がおこなわれた場合」のものですから、遺産の一部についての包括遺贈であったとすれば、相続人不存在の規定が適用されると解するべきでしょう。また、遺言の有効性について争いがある場合について、相続財産管理人を選任すべきかも検討が必要だといえます。