数次相続が発生した場合、それぞれの相続についての登記申請をおこなうのが原則ですが、次に当てはまる場合には「中間の相続による登記申請を省略」することが認められているのが登記実務です。

数次相続による登記で、中間省略登記が認められる場合

  1. 中間の相続人が1人である場合
  2. 中間の相続人が数人であったが、遺産分割によりその中の1人が相続した場合
  3. 中間の相続人が数人であったが、相続の放棄によりその中の1人が相続した場合
  4. 中間の相続人が数人であったが、その相続人の中の1人以外の相続人が相続分を超える特別受益者であった場合

たとえば、下図の通りの相続関係だったとします。1次相続の相続人はA、B、長男の3人でした。2次相続の相続人はC、D、Eの3人です。そこで、A、B、C、D、Eの5人により遺産分割をした結果、Dが不動産を取得することとなった場合、被相続人から直接Dに対する所有権移転登記をすることができます。

数次相続による登記で、中間省略登記が認められる場合

本例は、上記の2「中間の相続人が数人であったが、遺産分割によりその中の1人が相続した場合」に当たるからです。もしも、中間省略登記が認められないとすれば、1件目の登記申請で「被相続人から、長男に対する所有権移転登記」をした後に、2件目の登記申請で「長男から、Dに対する所有権移転登記」することになります。

最終相続人が1人の場合にも、中間省略登記ができるのか

上記の例は、「中間の相続人が数人」であり、かつ、「最終の相続人も数人」であるケースです。この場合には、数次相続が発生した後におこなう遺産分割協議によって、被相続人から最終相続人へ直接の所有権移転登記ができました。

数次相続による登記(最終相続人が1人)

上図の相続関係では、中間の相続人は数人ですが、最終の相続人は1人です。この場合であっても、最終相続人が1人で作成した遺産処分決定書(または、遺産分割協議書)を添付することにより、中間省略登記が可能であったのがかつての登記実務でした。

「相続における戸籍の見方と登記手続(日本加除出版)」でも上記取り扱いを肯定しており、次のような遺産処分決定書(または、遺産分割協議書)の書式例も掲載されています。

遺産処分決定書(または、遺産分割協議書)

平成○年○月○日A死亡による同人の遺産である後記物件は、相続人○が直接に全部相続し取得する。

物件の表示 (省略)

平成○年○月○日

上記 最終相続人 住所 甲野一郎(印)

上記が可能な根拠として、最終相続人が被相続人の権利義務だけでなく、BがAから承継した権利義務も承継(分割協議権の承継も)しているところから、両者の身分を併有している者として遺産処分決定(または、遺産分割協議)がおこなえるとしています。

ところが、近年になって上記の登記実務を否定する質疑応答(登記研究758号)が出てきました。

甲の死亡により、配偶者乙と甲乙の子丙が共同相続人となったが、相続登記未了の間に乙が死亡した場合において、甲から丙に相続を原因とする所有権の移転の登記をするためには、丙を相続人とする遺産分割協議書又は乙の特別受益証明書等を添付する必要があり、これらの添付がない場合には、乙丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をした上で、乙の持分について丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をすべきである。(登研758)

これによれば、妻Bの存命中に、Bと子の間で遺産分割協議が成立していたか、または、妻Bが特別受益者に当たる場合を除いては、中間省略登記が認められないと考えられます。

さらには、登記申請を却下する旨の処分の取消を求めた裁判(東京地判平成26年3月13日)においても、最終相続人が1人の場合の遺産処分決定書に基づく登記が明確に否定されています。

遺産分割は,相続財産が共同相続人による共有状態にあることを前提とするものである(民法907条参照)。亡B及び原告は,本件1次相続により,本件各共有持分を共同相続したものの,亡Bの死亡後は,本件各共有持分に係る共同相続人間の共有状態は既に解消されており,これを共同相続人のいずれに帰属させるかという問題はもはや存在しなくなっていたのであるから,遺産分割の趣旨に照らしても,本件各共有持分について,原告単独での遺産分割を行うことはできないと解するべきである。したがって,原告単独での遺産分割が可能であることを前提とする本件遺産処分決定書は,本件各登記申請に係る登記原因証明情報とはなり得ない。

判決中では上記のような判断が示されています。つまり、1次相続の時点で共同相続人である妻子の共有状態だったのが、2次相続が開始した時点ですべての権利義務が子に承継されるので、その後になって、遺産処分決定(または、遺産分割協議)をする余地はないというわけです。