抵当権抹消登記をする際に、抵当権者が破産手続開始決定を受けているときの手続きについてです。このようなケースがどれ程あるのかは分かりませんが、じっさいに最近ご依頼を受けた事件にもとづいています。

だいぶ昔に借入をした際におこなった抵当権設定登記で、債務の返済は終わっているはずなのだが、登記事項証明書(登記簿謄本)をみると抵当権設定登記が残ったままになっている。そこで、この抵当権抹消登記をしたいとのご依頼でした。

さっそく、抵当権者として登記されている会社を調査してみると、破産手続開始決定を受けています。そこで、破産管財人に連絡を取ったところ「たしかに返済は完了しており、抵当権抹消登記に協力する」との回答が得られました。

登記原因による、裁判所の許可書の要否

抵当権者が破産手続開始決定を受けている場合、登記義務者として登記申請をおこなうのは、破産者(抵当権者)の破産管財人です。

この場合、抵当権抹消登記の登記原因により、裁判所の許可書が必要であるか否かが違ってきます。まず、登記原因が「弁済」「主債務消滅」の場合には、裁判所の許可書は不要です。また、登記原因が「解除」の場合には、裁判所の許可書が必要です。破産管財人が破産財団に属する権利を放棄することとなり、破産法72条2項12号の「権利の放棄」に該当するからです(登記情報611号49頁)。

本件の場合、弁済日は不明であるもの、すでに弁済していることを抵当権者(破産管財人)が認めています。そこで、過去の不明な日付による「弁済」を登記原因とするのではなく、「解除」によるべきであるとして、裁判所の許可を得ることとなりました。

今回は、次のように抹消する抵当権を特定しての許可書を使用しましたが、担保権解除及び抹消登記手続についての包括的な許可がなされる場合もあるようです。

東京地方裁判所民事第20部 特定管財○係

平成26年(フ)第11111号
破産者 株式会社○○商事

本件につき平成○○年○○月○○日
許可があったことを証明する。
 東京地方裁判所民事第20部
 裁判所書記官 ○ ○ ○ ○ (印)

許可証明申立書

1 申立の趣旨

 破産者が別紙物件目録記載の不動産に設定している後記2の抵当権の抹消登記手続を行うこと。

2 本件抵当権の内容

原因 平成○年○月○日 金銭消費貸借同日設定

債権額金1000万円

損害金年○%

債務者 千葉県松戸市松戸1000番地 松戸一郎

抵当権者 東京都千代田区霞が関一丁目○番○号 株式会社○○商事

共同担保目録(あ)第1111号

平成○○年○○月○○日

破産管財人 ○○ ○○

破産管財人からは、上記のような「許可書」と裁判所書記官作成の「破産管財人選及び印鑑証明書」の交付を受け、さらに当事務所で作成した登記原因証明情報および委任状に押印をいただきました。なお、登記原因証明情報には次のように、裁判所の許可があった旨の記載が必要です。

2 登記の原因となる事実又は法律行為

(1)本件不動産上の抵当権(平成○年○月○日千葉地方法務局松戸支局受付第○○○○号)は、平成27年○月○日、これを解除した。

(2)本件抵当権の抹消登記手続について、平成27年○月○日、東京地方裁判所の許可があった。