平成28年度司法書士試験合格者に向けた新人研修の講師をして欲しいとのご依頼がありました。「独立開業に備えて」との研修会の中で、ウェブによるマーケティングについて講義してくれとのこと。

これまで研修講師などほとんどしてきませんでしたが、事務所開業から15年が経過した今、せっかくの機会なので新人の皆様にお話をしてみるのも良いかと思い引き受けた次第です。

ウェブによるマーケティングは当事務所の経営の根幹に関わるものですから、全ての手の内を晒すわけにはいきません。けれども、これから開業しようとしている新人の方々になら、ある程度お話ししてしまっても差し支えないと考えています。

以下は、どんな話をしようかと考えつつ、講義内容の下書きをしてみるものです。記事にするようなものじゃないですが、せっかく書くのでアップします。そして、また修正していく予定です。

ウェブによるマーケティングについて

最初にお伝えしておきたいのは、私が開業した平成14年当時はインターネットを活用した広告宣伝により事務所経営を行おうとする司法書士などほとんどいなかった時代だったということです。誰もやっていないからこそ、司法書士事務所を開業するにあたってインターネットの活用が有効だと考えたわけです。

現在は司法書士や業務範囲が重なる弁護士によるウェブサイトはいくらでもあります。そして、これから独立開業しようとする人がウェブサイトを開設しようとするのは、誰もが考えることであり全く当たり前のことです。

つまり、私がインターネット活用しようとしたのは、人と違うことをしようと考えたからであるのに対し、現在においては「誰もが考えること」になってしまっているわけです。このように時代背景が全く違うことをまずは頭においていただきたいと思います。

以下は、研修会でお話ししようと考えていたことの下書きです。

自己紹介など

平成5年に大学卒業。一般企業に入社し2社合計で6年少し勤務した後に司法書士を目指す。平成12年、30歳のときに司法書士試験に合格。翌年1月から丸1年間、都内の司法書士事務所で勤務した後、平成14年2月に松戸市で事務所開業。

開業当初の営業活動など

勤務していた事務所を辞めたのが平成13年12月末で、それから開業準備を開始。

ウェブサイトの作成にも開業準備の1つとして取り組む。前職がプログラマであり、ウェブサイト作成のためのHTML言語の知識もあったため、初歩的なものであれば難なく作成できる程度のスキルは持っていた。

つまり、司法書士事務所を開業するに当たり、自分がもともと持っていた技術を生かそうとした。それまでの職業経験などから培ってきた「自分の得意なこと」を生かすべきでは?

たとえば、飛び込み営業が得意な人なら、ネットなんか使わなくてもいくらでも仕事は取れるかも。

私が開業した当時は司法書士によるウェブサイトなどほとんど無く、そもそも司法書士がウェブサイトによる広告宣伝をおこなってよいのかも定かで無かった頃。そこで、登録面接の頃に、ウェブサイトによる広告宣伝を行って問題ないことを確認した。

平成14年2月の開業と同時にウェブサイトを公開。また、最初から独自ドメインを取得し、名刺などにも入れることで独自性をアピール。

ウェブサイトへの反応

開業してすぐに問合せがどんどん入るというような状況ではなく、最初の半年から1年程度はこれでやっていけるのか心配な状況だった。

競合するウェブサイトはほとんど存在しないものの、そもそもが何かを探すのにネットで調べるという人がまだごく少数であった。そのため、現在よりもウェブサイトへのアクセス数は遥かに少なかった。

それでも、インターネットの普及に足並みを揃えるように少しずつ問い合わせが増えていった。当初は債務整理関連の業務についての問合せが多かった。当時は、自己破産申立書の作成などを行っている司法書士はごく僅か。弁護士も同様であり、かつ、不特定多数の人からの依頼を受ける弁護士は少なかった(紹介が中心)。

そのため、自己破産や特定調停申立書の作成についての依頼が多くなっていった。さらに、開業翌年の平成15年7月に簡裁訴訟代理権を得たことで任意整理業務も開始。更にその後に、消費者金融等への過払金返還請求業務も手がけるように。

ウェブサイトによるマーケティングのみで何とかなったのは、他にやっている人がほとんどいなかったということに加えて、開業時期にインターネットの普及や司法書士の簡裁訴訟代理権獲得などが重なったことで、時期的に非情に恵まれていたのも要因だと思われる。

その後は、ウェブサイトによる集客に力を入れる同業者が増えてきたのを脅威に感じたこともある。けれども、何かを調べる際にインターネット(とくにGoogle検索)を利用するのが常識となってきたせいで、当事務所ウェブサイトへのアクセス数はほぼ一貫して右肩上がりだし、集客が大きく落ち込むことは無かった。

今からウェブによる集客が可能か

それでは、ここまでの昔話とは全く異なる現在において、新たに開業する司法書士がウェブサイトによる集客を武器に使用と考えるのは現実的なのか。

結論からいえば、やってやれないことは無いが、簡単では無いと肝に念じるべきだろう。

ウェブ検索する人は、1番良いと思った司法書士事務所に問合せをする。わざわざ2番目、3番目に良さそうなところに問合せをする人はいない。司法書士事務所によるウェブサイトが存在しないような場所で開業するなら別として、既存の司法書士事務所と比べてどうしたら自分を選んでもらえるのか?

ウェブサイトの見た目はそれなりでも問題無いと思うが、他より大きく劣らないことは絶対条件。それなりの見た目のウェブサイトを作ってもらおうと、普通に頼むと最低でも20,30万円?それでも望んだとおりのものが出来るとは限らない。初期費用5万円、月額5千円程度でウェブサイトが持てるサービスもある(ブログでホームページなど)。

WordPressを使って自分でウェブサイトを作れば費用は安く済むが、事務所ウェブサイトとして使えるクオリティのものを作成するのはそう簡単で無い。もともと知識があるなら別だが、初心者の状態から開業準備期に勉強するのではなかなか難しいかも。

なんとかウェブサイトの公開に漕ぎ着けたとしても、それだけでは問合せはほとんど無い。多くの見込顧客を集めるには、Google検索で上位表示されることが必須。Google検索で上位表示されるためには、有用なコンテンツが豊富にあることが重要。ブログであれば、最低1000文字くらいの記事を100以上公開することが最低でも必要か。

もしくは、PPC(ペイパークリック)広告を利用する(Google AdSenseなど)方法もあるが、1クリックごとに課金されるので、うまくやらないと莫大な広告費用がかかるばかりで満足な効果が得られない。

また、SEO(Search Engine Optimization)に関する最低限の知識も得ておくべき。ただし、基本的なやり方は難しくない。記事タイトルに検索して欲しい言葉を絶対に入れること。記事中にも、検索して欲しい言葉を複数買い入れることくらい。細かなことにこだわるよりも、良い記事をたくさん書くのが必要。

かつて流行った相互リンクはもうやるべきでは無い。また、SEOの業者にお金を払って上位表示を目指すのもGoogleからペナルティを受ける危険性が高い。

インターネット経由の問合せについて

インターネット経由の問合せはそもそも依頼につながらないとか、そうやって不特定多数からの依頼を受けようとするのは危険ではないかとの意見も耳にする。

当事務所の場合、建物の外に看板を出しておらず、相談は電話またはメールによる事前予約を必須としている(それでも飛び込みの人はたまに来るが)。そのため、事前にある程度の相談内容が把握できている場合が多い。

紹介のみでしか相談を受け付けないなら別だが、一見の不特定多数の人からの相談・依頼を受けるというならば、インターネット経由がとくに問題だということはない(むしろ、事務所の外に看板を出して飛び込みの相談客を受けて入れている方が危険では?)。

インターネット経由の問合せでも、事務所の看板を見て飛び込んでくる客でも、たまにしか応対しなければ経験の蓄積がないので、そのために逃げ腰になってしまう。毎日のように一見のお客さんに対応していれば、怖いことなど無い。

もちろん、全く素性の分からない人を事務所に招き入れて相談を受けるわけだから、それなりの心構えが必要であるのは当然だが。

結局は、銀行や不動産業者からの依頼をメインとした従来型のやり方にするのか、または、不特定多数の個人客からの依頼を受けようとするのかの選択である。後者を選ぶのであれば、インターネットだから危険だということにはならないはず。

これからのウェブ戦略は

今までは、ウェブサイト(ホームページ)がしっかりしていればそれで十分だった。さらに、ウェブサイトを補強するものとしてブログを活用すれば万全という感じ。しかし、これから開業しようとする人が同じことをやってうまくいくのか?

ネットで司法書士をどうやって選択するか。たとえば、経験年数も司法書士選びの重要な要素。2つの司法書士事務所のウェブサイトを見比べた際に、「開業したての若手司法書士事務所」と「10年以上の豊富な経験がある司法書士事務所」のどちらを選ぶのか。

たとえば、経験が少ない場合、開業した年などを正直に書くよりは、何も書かない方が無難かもしれない(嘘は駄目だが、何をアピールするかは自分で選択できる)。

もしくは、検索結果の1位に位置して圧倒的なアクセス数を集めることが可能ならば、新人司法書士でも集客が可能かもしれない。しかし、ウェブによる集客をおこなったことのない人が、そのようなことを実現するのは困難だと思われる。

SEO対策などの業者にお金を払えば上位表示が可能かもしれないが、わけも分からない状態でお金を払うのは危険。本当に効果が得られるか分からないし、変な対策をおこなえばGoogleからペナルティを受ける可能性も。そんなに都合の良い方法は存在しないし、もしあるならば他の人がとっくに使っているはず。

私がウェブによるマーケティングで15年以上も事務所運営をしてこられたのは、他と違うことをしてきたから。今から司法書士事務所を開業するのにただウェブサイトを作るというだけなのであれば、他と同じことをしているに過ぎない。では何をするか?

たとえば、Twitter、facebook、Instagram、LINE、YouTube などの活用。私は、Twitter、facebookはいちおう使っているが、それが集客に役立っていることは無いはず。その他は手付かずだし、今のところやるつもりは無い。

これからの5年、10年先を考えると、Googleの天下がいつまで続くのかすら分からない。ネットを集客のツールに使おうと思うならば、自分自身が情報収集を怠らず徹底的に詳しくなるか、または、信頼できるパートナーを得ることが重要。中途半端にとりあえずやってみるだけでは難しいだろう。