法制審議会の「民法・不動産登記法部会第26回会議(令和3年2月2日開催)」において、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定されました。

民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(法務省)

日経電子版(2021年2月10日付)でも次のように報じられています。

法制審議会(法相の諮問機関)は10日、相続や住所・氏名を変更した時に土地の登記を義務付ける法改正案を答申した。相続から3年以内に申請しなければ10万円以下の過料を科す。所有者に連絡がつかない所有者不明土地は全体の2割程度に達し、土地の有効活用の弊害になっている。

現時点では、上記の要綱案にざっと目を通したのみであり、今後どうなっていくのかは分かりませんが、司法書士として気になるところについて記しておくことにします。

まず、相続登記の義務化について、上記要綱案には次のように書かれています。

不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により当該不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

そして、相続登記等の登記申請義務違反については、「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する」とされています。ただし、相続から3年以内に遺産分割協議を完了させて相続登記をおこなわなければ過料の対象になるというものではなく、「相続人申告登記(仮称)」が創設されるとのことです。

この相続人申告登記(仮称)とは次のようなものです(下記は概要を分かりやすくするよう、簡略化しています。正確な記述は上記要綱案をご覧ください)。

  1. 相続による所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出る
    ことができる。
  2. 相続から3年の期間内に前記1の規定による申出をした者は、相続による所有権移転登記を申請する義務を履行したものとみなす。
  3. 登記官は、前記1の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所等を所有権の登記に付記することができる。
  4. 前記1の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したときは、当該遺産の分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない
  5. 相続人申告登記(仮称)の規定による申出をする場合、申出人は当該登記名義人の法定相続人であることを証する情報(その有する持分の割合を証する情報を含まない)を提供しなければならないものとされます。

    この法定相続人であることを証する情報とは、具体的には、単に申出人が法定相続人の一人であることが分かる限度での戸籍謄抄本を提供すれば足りるとのことです。つまり、法定相続人の1人から相続人申告登記(仮称)の規定による申出をしておけば、相続から3年以内にすべき相続登記の義務を果たしたことになるわけです。

    上記の申出に基づく登記がなされることで、所有権の登記名義人について相続が開始していることが明らかになり、申出人である相続人の住所氏名等が登記されるので、所有者不明土地が新たに発生することは避けられるということでしょうか。

    申出をしたことにより義務を果たした気になってしまい、その後の遺産分割を進めることなしに放置してしまうケースも出てきそうな気がしますが、さてどうなることでしょう。

    また、今回の要綱案によれば、所有権の登記名義人の氏名、住所等の変更登記申請についても義務化されるとのことです。

    1. 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。
    2. 前記1の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処する。

    現在は、住所移転をした場合に、登記名義人住所変更の登記が必要であることを認識している人の方が少数派だと思われます。新たに所有者不明土地が発生するのを防ぐためには必要なことであるとしても、不動産所有者の全員に周知させるのは大変なことでしょう。

    上記の要綱案による法改正が実現した場合、司法書士の業務にも大きな影響があることでしょう。登記すべき件数が増大するとして、それが司法書士業務の増加に繋がるのかも分かりませんが、今後の動きを注視していきたいと思います。