※このページは司法書士高島一寛(千葉県松戸市)が、自身の業務において参照するために作成しているものであり、内容の正確性については一切の責任を負いません。

遺産分割の協議後に他の相続人が死亡して当該協議の証明者が一人となった場合の相続による所有権の移転の登記の可否について(平成28年3月2日付け法務省民二第153号法務省民事局長回答)

所有権の登記名義人Aが死亡し、Aの法定相続人がB及びCのみである場合において、BとCの間でCが単独でAの遺産を取得する旨のAの遺産の分割の協議が行われた後にBが死亡したときは、遺産の分割の協議は要式行為でないことから、Bの生前にBとCの間で遺産分割協議書が作成されていなくても当該協議は有効であり、また、Cは当該協議の内容を証明できる唯一の相続人であるから、当該協議の内容を明記してCがBの死後に作成した遺産分割協議証明書(別紙)は、登記原因証明情報としての適格性を有し、これがCの印鑑証明書とともに提供されたときは、相続による所有権の移転の登記の申請に係る登記をすることができる。

遺産分割協議証明書

平成20年11月12日○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号Aの死亡によって開始した相続における共同相続人B及びCが平成23年5月10日に行った遺産分割協議の結果、○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号Cが被相続人の遺産に属する後記物件を単独取得したことを証明する。

平成27年1月1日

○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号
(Aの相続人兼Aの相続人Bの相続人)
C (印)

不動産の表示
  (略)

所有権の登記名義人Aが死亡し、Aの法定相続人がB及びCのみである場合において、Aの遺産の分割の協議がされないままBが死亡し、Bの法定相続人がCのみであるときは、CはAの遺産の分割(民法907条1項)をする余地はないことから、CがA及びBの死後にAの遺産である不動産の共有持分を直接全て相続し、取得したことを内容とするCが作成した書面は、登記原因証明情報としての適格性を欠くものとされている(東京高等裁判所平成26年9月30日判決)。これに対して、上記の場合において、BとCの間でCが単独でAの遺産を取得する旨のAの遺産の分割の協議が行われた後にBが死亡したときは、CがBの死後に作成した遺産分割協議証明書(印鑑証明書添付)により、相続登記を行うことができるとされたものである。

上記の場合において、遺産分割協議が行われていたのであれば、遺産分割協議証明書により登記ができることは明確になったが、遺産分割協議(または、特別受益)がなかったときには、次のとおり2件の登記によるしかないことで確定したわけか。

甲の死亡により、配偶者乙と甲乙の子丙が共同相続人となったが、相続登記未了の間に乙が死亡した場合において、甲から丙に相続を原因とする所有権の移転の登記をするためには、丙を相続人とする遺産分割協議書又は乙の特別受益証明書等を添付する必要があり、これらの添付がない場合には、乙丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をした上で、乙の持分について丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をすべきである。(登研758)

上記によれば、乙の生前に遺産分割協議をおこなっていたか、または、乙が特別受益者にあたる場合を除いては次の2件の登記によるしかない。この場合、2件とも法定相続による相続登記なので、遺産分割協議書(遺産処分決定書)、または特別受益証明書などの添付は不要。

1.甲(被相続人)から、亡乙(配偶者)と丙(子)に対する、法定相続による相続登記
2.亡乙から、丙に対する、法定相続による相続登記