不動産の登記簿(登記記録)には、所有者の住所と氏名が登記されています。この登記されている住所は、引っ越しをして住民票を移しても自動的に書き換わることはありません。
そのため、引っ越しをした際、司法書士に依頼して(またはご自分で法務局に行って)、住所変更(登記名義人住所変更)の登記をしなければ、登記簿上の住所はいつまでも旧住所のままになっています。
そこで、相続登記をする際、共有者の住所が変わっている場合には、住所変更登記も一緒にしておくのがよいでしょう。とくに住所が変更となっている共有者が不動産を相続する場合には、事前に住所変更登記をしておくことが必須だといえます。
住所変更をせずに相続登記をしてしまうと、同一人物であるのに違う住所で登記されてしまうことで不都合が生じるからです。
上の図は登記簿謄本(登記事項証明書)の一部です。不動産を千葉一郎、千葉花子が2分の1ずつの共有で相続し所有していました。それを、一郎の死亡により、花子が相続することになったのです。
そこで、一郎名義の持分2分の1を、花子に対して、相続を原因とする所有権移転登記をするわけですが、その前に花子の住所変更登記をしています。これが、付記1号として登記されている「登記名義人表示変更」です。
花子は、昭和45年に相続を原因とする所有権移転登記(相続登記)をした後、松戸市松戸から松戸市五香に引っ越しをしていたので、まずはその旨の登記をしたのです。この登記に続けて、「千葉一郎持分全部移転」の登記をしたことにより、花子は不動産の全部を所有することになったため、「所有者」と記載されています。
共有者の住所変更登記をしなかった場合
もしも、住所変更の登記をせずに相続登記のみをしてしまったら、登記簿の記載はどうなるでしょうか。下の図をご覧いただくと分かるとおり、順位番号2番の登記で、花子は共有者として登記されてしまっています。
登記簿に記載されているのは住所と氏名だけです。この両方が一致した場合のみ、新たに登記名義人となった人が、既存の共有者と同一人物であると判断されます。したがって、上図では松戸市松戸の千葉花子と、松戸市五香の千葉花子は同一人物であるとはみなされずで、共有者として登記されたわけです。
そのため、共有者が不動産を相続することとなった場合には、相続登記をする前に、住所変更登記(所有権登記名義人住所変更)をおこなっておくべきなのです。
被相続人の住所が変更になっている場合
この記事で解説してきたのは、相続により不動産を取得することとなった相続人の住所についてです。
それでは、相続登記をする際に「被相続人の最後の住所」が「登記簿上の住所」と異なっている場合には、事前に登記名義人住所変更の登記をする必要があるのでしょうか。
結論からいえば、この場合には登記名義人住所変更の登記は不要です。上にある登記簿謄本(登記事項証明書)でも、千葉一郎は花子と一緒に「松戸市松戸」から「松戸市五香」に引っ越ししましたが、登記名義人住所変更の登記をしていませんでした。
しかし、一郎に関しては登記簿上の住所が旧住所のままで、花子に対する持分全部移転の登記がなされています。被相続人については、相続登記の前に所有権登記名義人住所変更の登記をおこなう必要は無いからです。
ただし、登記簿上の所有者と、被相続人とが同一人物であることを証明するために、登記簿上の住所と最後の住所のつながりが分かる(除)住民票、戸籍(除籍、改製原戸籍)の謄本などが必要となります。このような書類を相続人がご自身で集めるのは困難だと思われるので、相続登記を依頼する司法書士に書類の収集もまかせるのが通常です。
相続登記(高島司法書士事務所ホームページ)