不動産の所有権が移転するためには、相続、遺贈、贈与、財産分与、売買など法律的に所有権移転の効果を生じさせる何らかの原因が必要です。ここでは、上に掲げた以外の各種の登記原因と、その際の登記手続きについての概要を解説します。
1.遺産分割による所有権移転
遺産分割という登記原因による所有権移転登記は、共同相続人名義での法定相続による相続登記がされた後に、遺産分割協議が成立した場合におこなわれるものです。
これに対し、法定相続による相続登記をする前に遺産分割協議が成立したときには、相続を登記原因とする所有権移転登記をします。この場合には、被相続人から、遺産分割協議により不動産を取得することとなった相続人へ、直接の所有権移転登記をすることができます。
ほとんどの場合、被相続人名義の不動産は、遺産分割協議が成立した後に相続を原因とする所有権移転登記により、不動産を相続する相続人の名義へ直接の所有権移転登記がおこなわれます。
遺産分割による所有権移転登記をする場合には、その前提として法定相続による相続登記をしているわけです。つまり、相続を原因とする所有権移転と、遺産分割による所有権移転の2つの登記をすることになりますから手間も費用もかかります。
したがって、遺産分割による所有権移転登記がおこなわれるのは、遺産分割協議が成立する前に、何らかの事情によって共同相続人名義での法定相続による相続登記をしてしまった場合に限られます。
遺産分割による所有権移転登記は、遺産分割によって持分が増える相続人を登記権利者、持分を失う相続人を登記義務者としておこないます。また、登記原因は遺産分割の成立した年月日で「平成○年○月○日 遺産分割」となります。
2.遺留分減殺による所有権移転
遺留分減殺という登記原因による所有権移転登記がおこなわれるのは、遺留分を侵害するような不動産の遺贈や贈与がされて、それによる所有権移転登記も既にされているときです。この場合に、遺留分を侵害された遺留分権利者が、受遺者または受贈者に対して遺留分減殺請求をした際の所有権移転登記で、遺留分減殺請求との登記原因が使われます。
登記原因は遺留分減殺で、その日付は、遺留分減殺請求の意思表示が相手方に到達した日です。登記をする際は、遺留分権利者が登記権利者、遺留分減殺請求を受けた人が登記義務者となり、共同申請でおこないます。
遺贈、贈与による所有権移転登記をする前に、遺留分減殺請求がおこなわれたときは、被相続人から遺留分権利者に対して相続を原因とする直接の所有権移転登記をします。つまり、受遺者に対して遺贈を原因とする所有権移転登記をした後に、遺留分減殺を原因とする所有権移転登記をするのではないということです。
被相続人名義に登記されている不動産について、乙が包括遺贈を受け、その登記前に丙より遺留分減殺請求があった場合は、直接丙のために相続による所有権移転登記をする(昭和30年5月23日 民事甲973)。
民法の条文では、遺贈および贈与について遺留分減殺請求ができるとしていますが、特定の相続人へ相続させるとの遺言に基づき、相続を原因とする所有権移転登記がおこなわれているときでも、遺留分を侵害された遺留分権利者は減殺請求をすることができます。この場合も、遺留分減殺を原因とする所有権移転登記(または、所有権一部移転登記)をすることになります。
第1030条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
第1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。