内縁(事実婚)とは、婚姻届は出していないが、両者が婚姻の意思をもっており、実質的には夫婦と同じような共同生活を送っていることをいいます。しかしながら、「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる」(民法739条1項)とされており、内縁の配偶者(夫、妻)は法定相続人とならないのです。
内縁の夫婦であっても、認知してる子供がいれば、夫の相続人となります。したがって、妻は相続人とならないものの、子に財産が相続されますから大きな問題は生じないかもしれません。ところが、子がいない内縁の夫婦の場合で夫が死亡したときには、その直系尊属、または兄弟姉妹(もしくは、その代襲者)が相続人となります。そのため、遺言書を書いておかないと、内縁の妻には一切の財産を残すことができない恐れがあります。
法定相続人がいる場合、すべての財産が相続人に引き継がれますから、内縁の妻には財産を相続する権利はありません。被相続人の財産の維持、または増加について特別に寄与した人に認められる寄与分が問題となるのは法定相続人のみですから、内縁の妻は寄与分を主張することもできません。
そのため、内縁(事実婚)の配偶者に財産を残すためには、遺言書の作成を必ずしておくべきです。遺贈(遺言による贈与)によれば、法定相続人でない人に財産を引き継がせることができます。また、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人である場合、兄弟姉妹には遺留分がありませんから、すべての財産を内縁の妻に残すことも可能です。
1.内縁の妻へ全てを相続させようとする場合
内縁の妻へ全ての遺産を相続させようとする場合には、次のような遺言をします。本例のように相続財産を特定して記載しなくとも、「全ての財産を遺贈する」というような書き方でも差し支えありません。
不動産を遺贈する場合には、遺言執行者の指定も必ずおこなっておくべきです。遺言執行者がいないときには、相続人全員を登記義務者として、遺贈による所有権移転登記をするか、または、家庭裁判所に遺言執行者の選任をしてもらう必要があります。
第○条 遺言者は、遺言書の有する下記の不動産その他一切の財産を、内縁の妻○○(昭和○○年○○月○○日生、住所 千葉県松戸市松戸○番地)に遺贈する。
記
所在 松戸市松戸本町
地番 100番地1
地目 宅地
地積 100.00平方メートル
第○条 遺言者は、遺言執行者として前記○○を指定する。
なお、このような遺言をした場合、遺言者(被相続人)の兄弟姉妹が法定相続人であるときには遺留分の問題は生じません。しかし、遺言者の子、直系尊属が法定相続人である場合には、その遺留分を侵害することになりますから、遺留分権利者の意向について気に掛けておく必要があるかもしれません。
2.内縁の妻、および子に財産を残そうとする場合
内縁の妻との間に子がいる場合、夫が認知してれば法定相続人となります。内縁の妻は相続人ではありませんから、子が唯一の相続人となるわけです。このようなケースで、子だけでなく内縁の妻にも財産を残そうとする場合には、子には「相続」、内縁の妻には「遺贈」をするとの遺言をすることができます。
相続人である子の遺留分は、財産の合計価額の2分の1です。したがって、妻に遺贈するのが財産の合計額の2分の1までであれば、遺留分を侵害することはありません。ただし、遺留分権利者である子に、その減殺請求をする意思がない場合には、内縁の妻により多くの財産を遺贈するとしても差し支えないのは当然です。
第○条 遺言者は、遺言書の有する預貯金を内縁の妻○○(昭和○○年○○月○○日生、住所 千葉県松戸市松戸○番地)に2分の1の割合で遺贈し、認知した子○○(昭和○○年○○月○○日生)に2分の1の割合で相続させる。
第○条 遺言者は、遺言執行者として前記○○を指定する。
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