遺言により遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうことができます。
この申立は、遺言により不動産の遺贈を受けた方(受遺者)が、自分自身を遺言執行者候補者としておこなうことも可能です。家庭裁判所により受遺者が遺言執行者に選任された場合には、遺言者の相続人の協力を得ること無しに、遺贈による登記申請がおこなえます。
司法書士に遺言執行者の選任をご依頼くだされば、戸籍謄本などの必要書類の収集から、遺言執行者選任申立書の作成および裁判所への提出、さらに遺贈による不動産の登記(名義変更)まで、すべての手続きをお任せいただけます。
1.遺言執行者とは(遺贈による不動産登記をするとき)
遺言の執行とは、遺言内容を実現させることをいいます。また、遺言執行者とは、その名のとおり「遺言内容を実現させる者」のことです。たとえば、遺言にもとづいて、銀行預金の払い戻し(解約手続)や、株式など有価証券の名義変更手続などをするほか、遺贈による不動産所有権移転登記をする際にも登記義務者として手続に関与します。
遺言執行者が絶対に必要なのは、遺言により子を認知する場合や、推定相続人を廃除する場合などですが、不動産の遺贈(遺言による贈与)をする際にも遺言執行者を指定しておくのが望ましいでしょう。
不動産の遺贈があった場合、遺言執行者がいるときには、受遺者を登記権利者、遺言執行者を登記義務者として、遺贈による所有権移転登記(名義変更)の申請をします。つまり、遺言執行者がいるときには、遺言者の相続人は登記手続に関与する必要はありません。
しかし、遺言執行者がいないときには、遺産相続手続きは相続人の全員によりおこなうのが原則です。そのため、不動産の遺贈による所有権移転登記をする際には、相続人全員が登記義務者として登記手続をすることになりますが、相続人が多い場合や、手続きに協力的でない相続人がいるときが問題です。
このような場合に、遺言により遺言執行者が指定されていないときでも、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうことができます。
遺言執行者選任の申立は、遺言により不動産の遺贈を受けた方(受遺者)が、自分自身を遺言執行者候補者としてすることも可能です。家庭裁判所により受遺者が遺言執行者に選任された場合には、遺言者の相続人の協力を得ること無しに、受遺者自身が登記権利者と登記義務者亡○○遺言執行者を兼ねることで、単独で登記申請がおこなえます。
2.遺言執行者選任の申立て
2-1.申立てができる場合
遺言執行者が就任するには次の方法があります。
- 遺言者が、遺言により遺言執行者を指定する。
- 遺言者が、遺言により遺言執行者の指定を第三者に委託し、その委託を受けた人が遺言執行者を指定する。
- 利害関係人の請求により、家庭裁判所が遺言執行者を選任する。
1,2の方法については、遺言者が生前に行うものですから、相続が開始してから遺言執行者が必要になった場合には、3の方法、つまり家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをすることになります。
また、家庭裁判所への遺言執行者の選任の申立は次の場合におこなうことができます。
- 遺言によって遺言を執行する人が指定されていないとき。
- 遺言執行者がいたが、辞任、解任、死亡、または破産手続の開始決定を受けたことにより、遺言執行者がいなくなったとき。
2-2.遺言執行者になれる人(欠格事由)
未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができません(民法1009条)。それ以外の制限は無いので、相続人や受遺者が遺言執行者となることもできます。受遺者自身が遺言執行者に選任されれば、登記権利者と登記義務者亡○○遺言執行者を兼ねることにより、単独で登記申請がおこなえます。
遺言書を作成する際には、相続人や受遺者を遺言執行者に指定することが多いですが、弁護士や司法書士といった法律専門家を遺言執行者にすることもできます。
2-3.遺言執行者選任の申立手続
遺言執行者選任の申立ては次のように行います。司法書士にご依頼くだされば、申立書(家事審判申立書)の作成だけでなく、必要な戸籍謄本、住民票等の収集もお任せいただけます。
(1) 申立てできる人
・利害関係人(相続人、受遺者、相続債権者など)
(2) 申立てをする裁判所
相続開始地の家庭裁判所
(3) 必要書類等
遺言執行者選任の申立てには、次のような書類などが必要となります。必要書類の収集および申立書の作成などはすべて司法書士にご依頼いただけます。
- 遺言執行者選任申立書
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 遺言執行者候補者の住民票
- 遺言書写し(コピー)
- 申立人の利害関係を証する資料(親族が申し立てる場合は戸籍謄本)
- 収入印紙(800円)
- 郵便切手(82円×9枚,10円×8枚 合計818円分)・・・東京家庭裁判所の場合
3.遺言執行者の選任審判書(例)
遺言執行者が選任されると、家庭裁判所から次のような審判書が交付されます。この遺言執行者選任審判書は「遺言執行者の資格を証する書面」として、遺贈の登記の必要添付書類となります。
平成24年(家)第12345号
審判
本籍 千葉県松戸市松戸1番地
住所 千葉県松戸市松戸1番地
申立人 我孫子 花子
本籍 千葉県松戸市新松戸一丁目1番地
住所 千葉県松戸市新松戸一丁目1番地
遺言者 我孫子 太郎
平成○○年○○月○○日死亡
上記申立人からの遺言執行者選任申立事件について,当裁判所はその申立を相当と認め,次のとおり審判する。
主文
遺言者我孫子太郎が平成○○年○○月○○日にした遺言の執行者に申立人を選任する。
平成○○年○○月○○日
千葉家庭裁判所松戸支部
家事審判官 ○ ○ ○ ○
これは謄本である
同日同庁
裁判所書記官 ○ ○ ○ ○ (印)
・関連情報