民事再生の再生計画において、住宅資金貸付債権について、住宅資金特別条項を定めることができます。住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されれば、住宅を手放すこと無しに、住宅ローン以外の債務を整理することが可能となります。
住宅資金特別条項では、住宅ローンの返済条件を変更(リスケジュール)することも可能ですが、現時点で住宅ローンの支払いが遅れていないときには、当初の約定どおりそのまま支払うとすることが多いです。この場合には、再生手続開始の申立時に、住宅ローンについての「弁済許可申立」をおこなうことで、再生手続きの最中も住宅ローンの支払いを継続するのがベストでしょう。
住宅ローンの支払いを停止してしまえば、住宅ローンについての期限の利益を喪失し、ローンの残額に認可決定確定までの遅延損害金を上乗せして弁済しなければならなくなります。それが、弁済許可を受けて支払いを継続することによって、そのような事態に陥るのを防げるわけです。
住宅資金貸付債権に関する督促は、民事再生法第10章(第196条から第206条)に定められています。すべてを理解しようとすると極めて複雑かつ難解な規定となっているため、このページでは住宅ローンを当初の約定どおりにそのまま支払う、いわゆる「そのまま型」の住宅資金特別条項を定める場合についての解説を主におこないます。
また、細かな例外規定などについて触れていないこともあるので、実際に手続きをおこなおうとする際は専門家(弁護士、司法書士)にご相談ください。当事務所でも住宅資金特別条項を定めた再生計画案の作成を多数おこなっておりますのでご相談ください。
住宅資金貸付債権に関する特則の適用を受けて、再生計画に住宅資金特別条項を定めるには、次の要件を満たす必要があります。
(1)建物が住宅に当たること
住宅資金貸付債権に関する特則の適用を受けるための「住宅」は次のとおり定義されています(民事再生法196条1号)。
個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるもの。ただし、当該建物が2以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する1の建物に限る。
「個人である再生債務者が所有」している建物とありますが、ここでいう所有には共有も含まれます。たとえば、夫婦共有で住宅を購入し、一方が住宅ローンの返済を継続できなかった場合に、住宅資金貸付債権に関する特則の適用を受けることも可能です。
「自己の居住の用に供する建物」とは、いわゆる自宅のことをいっています。また、自宅を事業にも使っている場合であっても、床面積の2分の1以上に相当する部分を自宅として使っているならば、ここでいう住宅に当たるとされています。
(2)住宅資金貸付債権であること
特則の適用を受けるための「住宅資金貸付債権」の要件は次のとおり定義されています(民事再生法196条3号)。
1.住宅の建設もしくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む)、または住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であること。
2.当該債権または当該債権に係る債務の保証会社の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されている。
住宅に、住宅資金貸付債権を担保する抵当権のほかに、一般債権を担保する抵当権などが設定されている場合には、住宅資金貸付債権に関する特則の適用を受けることができません。つまり、住宅ローン以外の、不動産担保ローンを利用しているときには、住宅資金特別条項を定めることができないのです。
1.弁済許可申立書の例
平成28年(再イ)第○○号
弁済許可申立書
平成 年 月 日
千葉地方裁判所松戸支部 御中
申立人(再生債務者) ○ ○ ○ ○ (印)
第1 申立の趣旨(許可を求める事項)
申立人が、再生手続開始後、再生計画の認可決定確定までの間、下記住宅資金貸付債権につき、下記のとおり弁済することを許可する。
記
1 住宅資金貸付債権の表示
平成○年○月○日付、金銭消費貸借契約に基づき、株式会社○○銀行が申立人に対して有する貸付債権。
2 弁済方法
前記約定書記載の支払方法のとおり。
第2 申立ての理由
1 申立人は,再生計画につき住宅資金特別条項を定める旨の申述をしている。
2 再生手続開始後に上記弁済をしなければ,申立人は約定により住宅資金貸付債権の全部又は一部について期限の利益を失う可能性がある。
3 申立人が提出を予定している住宅資金特別条項を定めた再生計画案は,本日提出の再生手続開始申立書及び添付の陳述書第○等に記載のとおりであり,御庁によって認可される見込みがある。
4 よって,上記許可を求める。
添付書類
1 副本 1通
以上
※再生手続開始の申立時に正副の2通を提出
2.いわゆる「そのまま型」の住宅資金特別条項の例
別紙1
債権者○○銀行についての住宅資金特別条項
1 対象となる住宅資金貸付債権
平成 年 月 日付、金銭消費貸借契約書(以下原契約書という。)に基づき、上記債権者が再生債務者に対して有する貸付債権
2 条項の内容
上記1の住宅資金貸付債権の弁済は,本再生計画の認可決定が確定した日から,以下のとおりとする。
(1)再生計画認可の決定の確定の時までに弁済期が到来する元本及びこれに対する約定利率による利息・損害金に関する条項
原契約書の各条項に従う。
(2)再生計画認可の決定の確定の時までに弁済期が到来しない元本及びこれに対する約定利率による利息に関する条項
原契約書の各条項に従う。