2.個人民事再生により返済すべき額は?
3.清算価値に加える財産の範囲は?
4.住宅を手放さずに済むのは?
5.小規模個人再生とは?
6.給与所得者等再生とは?
7.小規模個人再生、給与所得者等再生の選択基準は?
8.個人民事再生の手続きにかかる期間は?
1.個人民事再生を利用できる条件は?
個人民事再生を利用できるのは、継続的または反復して収入を得る見込みがあり、かつ、住宅ローン以外の債務が5,000万円を超えない方です。
サラリーマンなどの給与所得者はもちろん、年金生活者や、個人事業主でも継続的または反復して収入を得る見込みがあるならば利用可能です。ただし、申立人本人について収入があることが条件ですから、専業主婦などご自身の収入が全くない場合には個人民事再生は利用できません。
また、個人民事再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つがあります。給与所得者等再生では、上記の要件に加え「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、その額の変動幅が小さいと見込まれる」ことが必要です。
2.個人民事再生により返済すべき額(計画弁済総額の下限)
個人民事再生では、債務総額(基準債権の総額)に応じた、再生計画に基づく弁済の総額(計画弁済総額)の下限が次のとおり定められています。これにより、債務総額が100万円から500万円までの場合の最低限返済すべき額(計画弁済総額の下限)は100万円ですから、最大で400万円(債務総額の8割)の減額が受けられることになります。
基準債権の総額 | 計画弁済総額の下限 |
---|---|
100万円未満 | 債務の総額そのまま |
100万円以上500万円未満 | 100万円 |
500万円以上1500万円未満 | 債務の総額の5分の1 |
1500万円以上3000万円未満 | 300万円 |
3000万円以上5000万円未満 | 債務の総額の10分の1 |
なお、この計画弁済総額には、住宅資金特別条項を定める場合の住宅ローンは含まれません。個人民事再生手続によっても、住宅ローンについては一切減額されませんので、元本と利息の全てを支払うことになります。
2-1.清算価値保証原則
上記の規定に加え、計画弁済総額は、債務者が自己破産した場合に債権者が受けることができる予想配当額(清算価値)を下回ってはならないとされています。
簡単にいえば、その人が持っている財産の総額以上は、最低でも支払わなければならないということです。これを「清算価値保障原則」といいます。たとえば、退職金見込額や、生命保険の解約返戻金が多額な場合、計画弁済総額の算出にあたって清算価値が問題になることがあるかもしれません。
2-2.給与所得者等再生の可処分所得要件
給与所得者等再生の手続では、上記に加え計画弁済総額を可処分所得の2年分以上にしなければならないとの要件(可処分所得要件)もあります。
ここでいう可処分所得は、個々の家計の実情に応じて計算した可処分所得ではなく、収入や家族の人数、住んでいる場所などにより一律に算出されるものです。そのため、給与所得者等再生を利用すると、計画弁済総額が非常に高額になるために、あえて小規模個人再生を選択するケースも多いです。
3.清算価値に加える財産の範囲(民事再生の清算価値保証原則)
個人民事再生を申し立てるときは財産目録を作成します。そして、この財産目録に記載された財産によって清算価値を算出します。財産目録へ書くべきなのは、申立人(再生債務者)が持っている財産の全てだと言えますが、実際には裁判所の書式に従い次のようなものを記載することになります。
- 現金
- 預金・貯金
- 貸付金
- 積立金(社内預金、財形貯蓄等)
- 退職金制度(ある場合は、今、退職したら支払われるであろう退職金見込額)
- 保険(生命保険、損害保険、火災保険等)
- 有価証券等(株券、社債、ゴルフ会員権等)
- 自動車、バイク等
- 高価な品物(過去5年間で購入価格が20万円以上のもの)
- 不動産
- 敷金
- 相続財産(遺産分割未了の財産も含む)
保険の解約返戻金がある場合で、契約者貸付を受けているときは、解約返戻金額から契約者貸付金を差し引いた金額を財産目録に記載します。
上記財産の合計が清算価値となりますが、退職金については、退職金見込額の8分の1を清算価値とする裁判所が多いと思われます。
4.住宅を手放さずに済むのは(住宅資金貸付債権に関する特則)
自己破産をした場合、ローン支払い中の住宅は必ず手放さなければなりません。けれども、民事再生の場合には住宅資金貸付債権に関する特則の適用を受けて、再生計画に住宅資金特別条項を定めることで、住宅を保有し続けることが可能となります。
住宅資金貸付債権に関する特則の適用を受けるための要件は、個人である再生債務者が所有し自己の居住の用に供する建物であることや、住宅ローン(住宅資金貸付債権)を担保する抵当権のほかに、一般債権を担保する抵当権などが設定されていないことなどがあります。
5.小規模個人再生とは
小規模個人再生では、給与所得者等再生と異なり「可処分所得要件」が無いので、再生計画における最低弁済額(計画弁済総額)が少なくて済む場合が多いのが特徴です。たとえば、債務総額が500万円の場合、小規模個人再生での計画弁済総額の下限は100万円ですが、給与所得者等再生では可処分所得要件によりもっと高額になることも多いのです。
そのため、給与所得者等再生の「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、その額の変動幅が小さいと見込まれる」との要件を満たしている場合であっても、あえて小規模個人再生を選択することも多いです。
ただし、このように計画弁済総額を抑えることができる反面、小規模個人再生では再生債権者による再生計画案の決議があります。決議において、債権者数の半数以上、または総債権額の半分以上の債権者が反対したときは、再生計画案は否決されてしまいます。この場合、再生計画案の再提出などの救済措置は無く、再生手続が廃止になります。
しかくながら、決議に反対する債権者はごく僅かですので、再生計画案が否決される可能性が高いとして、小規模個人再生の利用を避けるべきケースは多くないものと思われます。
6.給与所得者等再生とは
給与所得者等再生では、小規模個人再生と異なり再生債権者の決議無しに裁判所により再生計画案の認可決定がなされるのが大きな特徴です。また、個人民事再生では、自己破産手続における免責不許可事由のような規定がありません。よって、給与所得者等再生ならば、法律上の要件を満たしている限り再生計画案が不認可になる心配が不要です。
ただし、債権者に異議を述べる機会が設けられていない代わりに、給与所得者等再生では、計画弁済総額を可処分所得の2年分以上にしなければならないとの要件(可処分所得要件)があるのです。
この可処分所得は、再生債務者の収入から公租公課と生活費を差し引いた金額です。生活費は「再生債務者およびその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額(最低生活費の額)」とされています。この最低生活費は、生活保護法による保護の基準により計算しますから、かなり低額に抑えられています。
つまり、収入から、税金(所得税・住民税)、社会保険料(健康保険料・介護保険料)と、生活保護の基準による最低生活費を差し引いた残りは、全て可処分所得だということになります。
実際の再生計画は、この可処分所得の2年分である計画弁済総額を、3年間で返済するものとなりますが、それでも小規模個人再生を選んだ場合に比べ高額になることが多いため、給与所得者等再生が利用できても、あえて小規模個人再生を選択するケースが多数だと思われます。
7.小規模個人再生、給与所得者等再生の選択基準は?
個人民事再生を利用するための要件は、継続的または反復して収入を得る見込みがあり、かつ、総債務額が5,000万円を超えない(住宅資金特別条項を定める場合の住宅ローンを除く)ことですが、給与所得者等再生では、これに加えて給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、その額の変動幅が小さいと見込まれることが必要です。
給与所得者等再生の要件を満たしていなければ、小規模個人再生を選択する以外の選択肢はありませんが、給与所得者等再生を利用できる方については、小規模個人再生と給与所得者等再生のどちらを選ぶことも可能です。
そこで、小規模個人再生と給与所得者等再生、双方のメリット・デメリットを考慮したうえで選択することになるのですが、現実には、可処分所得要件による計画弁済総額(再生計画による最低弁済額)が高額になるために、小規模個人再生を利用しているケースが大半だと思われます。
ただし、再生債権者数が少ない場合や、総債務額の過半を1社が占めるような場合、異議を述べる再生債権者がいないか注意を払うべきです。ときには事前に大口債権者の意向を確認することも必要でしょう。
また、そもそも債務総額が非常に多かったり、扶養家族が多かったりする場合は、可処分所得要件が計画弁済総額に影響を与えないこともありますから、給与所得者等再生の利用についても必ず検討は行うべきです。
8.個人民事再生の手続きにかかる期間は?
個人民事再生の手続は、裁判所に再生手続開始の申立てをすることではじまり、再生計画の認可決定が確定することで終了します。
申立てから、再生計画認可決定の確定までは半年くらいかかりますが、申立人ご本人には個人再生委員との面談に一度行っていただくだけで、その他の裁判所とのやりとりなどは全て司法書士におまかせいただけます。このように長い時間ががかかるのは、債権者からの債権届出、再生計画案提出、債権者による書面決議(小規模個人再生の場合)などの手続きが、法律に定められた通りに進行していくからです。
裁判所が関与する手続きは、再生計画案の認可決定が確定したときに終了します。その後は、再生計画にしたがって債権者への返済をおこないます。この返済期間は通常3年間ですが、再生計画により返済する額(計画弁済総額)が多い場合などには、返済期間を5年間とする再生計画案も可能です。