結婚していない相手方との子(婚外子)であっても、父親が認知していれば、その父の相続人となります。婚外子のことを、法律上は非嫡出子(ひちゃくしゅつし)といいます。非嫡出子であっても、嫡出子(法律婚の夫婦間の子)と同様に相続人となり、法定相続分も同じです。したがって、非嫡出子の存在を無視して遺産相続手続きを進めることはできません。
相続人となる非嫡出子がいるのを隠していた場合であっても、その存在は、遺産相続手続きの際に明らかになります。遺産分割協議は必ず相続人の全員によらなければならないので、相続人の調査をおこなうことが必須だからです。
相続人の調査は、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本などを取得することによりおこないます。子供を認知したときには、認知した旨が父親の戸籍に記載されます。そのため、被相続人の出生から死亡に至るまでのすべての戸籍謄本等を取れば、認知した子の存在が必ず明らかになるわけです。
仮にご自身の生前、事情により認知した子の存在を秘密にしていたようなときには、必ず遺言書を書いておくべきです。遺言書があっても、隠し子の存在が明らかになることには変わりありません。けれども、遺言書を作成しておくことにより、残されたご家族が遺産相続を巡るトラブルに巻き込まれるのを避けることができます。
1.婚外子(非嫡出子)に相続させない場合
2.婚外子(非嫡出子)にも相続させる場合
3.遺言による認知
4.非嫡出子の相続分(民法の改正について)
1.婚外子(非嫡出子)に相続させない場合
認知した婚外子(非嫡出子)がいる場合でも、その子には遺産を相続させないとする遺言も可能です。遺言書があれば、非嫡出子の同意を得ることなしに、銀行預金の払い戻し(解約、名義変更)や、不動産の相続登記などの遺産相続手続きをすることもできます。
ただし、子には遺留分がありますから、非嫡出子に相続させないとする遺言をした場合に、遺留分減殺請求をされることもあります。この場合には、遺留分相当額の財産を渡すことになります。
2.婚外子(非嫡出子)にも相続させる場合
嫡出子と非嫡出子が相続人となる場合などで、相続人による話し合いが難しいと予想されるときには、遺言により相続人の意思を明確にしておくべきです。
たとえば、次のように遺言により相続分の指定をすることもできますが、銀行預金や不動産などの相続手続きの際に、相続人2人が協力し合わなければなりません。
第○条 遺言者は、遺言書の有する財産の全部を、長男○○(昭和○年○月○日生)に3分の2、認知した子○○(昭和○年○月○日生)に3分の1の割合で相続させる。
そこで、次のように特定の財産を認知した子に、それ以外を長男に相続させるというような定め方であれば、相続人それぞれが単独で遺産相続手続きをすることが可能となります。遺留分を考慮した上で、財産を相続させるようにすれば争いが生じるのを防ぐことができます。/p>
第○条 遺言者は、遺言書の有する下記の不動産を、長男○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
記
不動産の表示 (省略)
第○条 遺言者は、遺言書の有する認知した子○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
記
銀行預金の表示 (省略)
第○条 遺言書は、前3項に記載する財産を除く遺言書の有する不動産、動産、預貯金、現金その他一切の財産を、長男○に相続させる。
3.遺言による認知
生前には認知していなかった子を、遺言により認知することもできます。遺言により認知したうえで、その子に遺産を相続させることもできるのです。
遺言による認知の場合には、遺言執行者が、その就職の日から10日以内に、認知に関する遺言の謄本を添附して、その届出をしなければなりません(戸籍法64条)。そのため、遺言執行者の指定もおこなっておくのがよいでしょう。
第○条 遺言者は、千葉県松戸市松戸○番地(本籍)A(昭和○年○月○日生)を認知する。
4.非嫡出子の相続分(民法の改正について)
かつては、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分でした。それが、平成25年12月11日に施行された、民法の一部を改正する法律により、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になっています。
民法900条4号では、「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする」とされていますが、平成25年の改法正前には、「ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし」との但し書きがありました。これが、次のとおり削除されたことにより、子の相続分が同一となったのです。
民法第900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
新法が適用されるのは、平成25年9月5日以後に開始した相続についてです。つまり、それ以前に開始した相続については、民法の規定によれば、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分となります。
ただし、最高裁による平成25年9月4日の違憲決定により、平成13年7月1日以後に開始した相続についても、既に遺産分割が終了しているなど確定的なものとなった法律関係を除いては、嫡出子と嫡出でない子の相続分が同等のものとして扱われると考えられます。
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