(最終更新日:2020年10月2日)
相続人が2名以上いる場合(共同相続)、相続人はそれぞれの法定相続分にしたがい遺産を相続する権利をもちます。
しかし、被相続人は、遺言により相続分を指定したり、または、生前贈与することなどによって、法定相続分にしたがうことなく自らの財産を承継させることもできます。たとえば、一部の相続人に多くの財産を引き継がせたり、さらには、相続人中の1人に全財産を相続させるとの遺言をすることも可能です。
ところが、このような場合でも、一定の相続人には、被相続人の意思に関わらず、最低限の相続分を受け取る権利が与えられています。これを遺留分(いりゅうぶん)といいます。
遺留分
1.遺留分権利者と遺留分の割合
2.遺留分侵害額請求
3.遺留分の放棄
1.遺留分権利者と遺留分の割合
遺留分がある相続人は、配偶者、子(またはその代襲相続人)、直系尊属で、兄弟姉妹には遺留分はありません。被相続人の意思に反してまで、兄弟姉妹に遺産を相続する権利を与える必要はないからです。
遺留分がある相続人についての、具体的な遺留分の割合は次のとおりです。
1 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
2 それ以外の場合 被相続人の財産の2分の1
遺留分権利者が複数いる場合は、遺留分全体を民法の法定相続分の割合にしたがって分配します。たとえば、遺産の総額が1000万円で、相続人が妻と子2人の場合の遺留分は次のようになります。
遺留分の総額は、相続財産の2分の1なので500万円。法定相続分は妻が2分の1、子はそれぞれ4分の1ずつ。したがって、妻の遺留分は250万円、子は125万円ずつ。
よって、たとえば、「長男に全ての財産を相続させる」との遺言を残して夫が亡くなった場合でも、妻は遺留分である250万円を受け取る権利があるのです。
民法第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
1 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
2 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1
2.遺留分侵害額請求
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む)または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法1046条1項)。この請求のことを「遺留分侵害額請求」といいます。
なお、改正前の民法においては、このような遺留分に対する権利行使を「遺留分減殺請求」といっていましたが、法改正により「遺留分侵害額請求」となりました。
遺留分侵害額請求の方法についてはとくに決まりがありませんが、内容証明郵便等により遺留分義務者に対して意思表示をおこなうことにより行使するのが通常でしょう。
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時か10年を経過したときも、同様に時効により消滅します(民法1048条)。
3.遺留分の放棄
相続人は自らの意思によって遺留分を放棄することができます。ただし、相続開始前に遺留分を放棄しようとするときには家庭裁判所の許可が必要です。
たとえば、ある相続人に対して、生前贈与をする代わりに遺留分の放棄をさせることがあります。こうすることで、生前贈与を受けている相続人が、相続開始後に自らの相続分を主張するような事態を避けることができます。
相続開始後に遺留分を放棄するときには、何らの手続きを必要としません。自らの遺留分を主張せず、他の相続人が遺産を相続することを承認すれば、それは遺留分を放棄していることになります。
相続人中の1人が自己の遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分が増加することはありません。遺留分を放棄すれば、結果として、被相続人が自由に処分できる財産が増加します。
民法第1049条 (遺留分の放棄)
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
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