(最終更新日:2020年10月2日)
特別受益とは、「相続人が、被相続人から、遺贈を受け、または婚姻もしくは養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けた」ことをいいます。特別受益者(特別受益を受けた人)の相続分について、民法903条第1項で次のとおり定められています。
- まず、特別受益が問題になるのは、「被相続人から、遺贈を受け、または婚姻、養子縁組、生計の資本として贈与を受けた」人がいるときです。この人のことを「特別受益者」といいます。
- 特別受益に当たる遺贈・贈与を受けた人がいるときは、「被相続人が相続開始の時に持っていた財産の価額に、その贈与の価額を加えたもの」を相続財産とみなします。
- そして、その人の相続分を、法定相続分、または遺言による指定相続分により算定した相続分の中から、「その遺贈、または贈与の価額を控除した残額」とするのです。これが「持ち戻し」です。
特別受益者がいる場合、持ち戻しをすることで、共同相続人の間に不公平が無くなりますし、通常は、被相続人の意思にも合致すると考えられます。ただし、被相続人が持ち戻しをしないで良いとの意思を表示したときは、その意思に従うとされています(民法903条3項)。
なお、特別受益の価額が相続分の価額に等しい(またはこれを超える)ときは、特別受益者はその相続分を受けることができません(同条2項)。
また、令和元年7月1日施行の改正相続法により、持戻し免除の意思表示の推定規定(同条4項)ができました。
この規定により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、持戻し免除の意思表示をしたものと推定されます。
特別受益として持ち戻しの対象となる財産は次の通りです。
- 遺贈
- 婚姻もしくは養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
遺贈については、どのような目的であるかに関係なく、すべて特別受益にあたります。
婚姻、養子縁組のための贈与とは、婚姻のための持参金や支度金、結納金、挙式費用などとして特に用意した費用が典型的な例ですが、社会通念上、遺産の前渡しとまではいえないような金額の贈与であれば、特別受益とはされません。現実の裁判例においても、これらの費用について特別受益性が認められた例は多くありません。
生計の資本としての贈与についても、生活費の援助や、学費(大学、専門学校、留学等)などについては、扶養義務の範囲内でなされた贈与であれば特別受益にはあたりません。親族間の扶養的金銭援助と考えられる一定金額の基準として、継続的な送金のうち月10万円に満たない部分は生計の資本としての贈与とは認められないと判示された事例があります(東京家審平成21年1月30日)。
民法第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。