被相続人が再婚している場合、離婚した前妻(または前夫。以下、「前妻」とします)との間に子がいたとすれば、その子も法定相続人の1人となります。そのため、遺産分割協議をする際には、前妻との間の子にも手続きに協力してもらう必要があるのです。
1.両親の離婚と、子の相続権
離婚する際に未成年の子がいるときには、父母の一方を親権者と定めなければなりません。ただし、父母の一方が親権者になったとしても、親権者にならなかった方の親と、子供との縁が切れるわけではありません。
したがって、母親を未成年の子の親権者と定めたときであっても、その子が父の実子であることには変わりなく、父が亡くなったときには法定相続人の1人となります。
そこで、被相続人である父が遺言書を残していないときには、前妻との子を含めた、法定相続人全員により遺産分割協議をおこなう必要があるのです。
たとえば、両親が離婚して以来、父とは何十年もの間、音信不通の状態だったとします。子からすれば、父がどこで暮らしているかも、生死すらも分からない状況です。それでも、父が死亡して相続が開始したときには、その子が相続人の1人となるわけです。
2.生前におこなうべき相続対策
2-1.遺言書の作成
再婚後の妻子と、前妻との子の関係が良好である場合には、相続人全員による遺産分割協議を円満におこなうこともできるかもしれません。
けれども、前妻との子とは面識すらないということも多いでしょう。そのような場合に、遺産分割協議の必要が生じたときになって突然連絡をしても、協力を得るのは困難であるかもしれません。
遺産分割協議を巡って問題が生じることが少しでも予想されるのであれば、遺言書の作成をしておくのが最善の策です。遺言によって遺産分割の方法を指定していれば、相続人の全員による遺産分割協議をせずに遺産相続手続きをすることも可能だからです。
たとえば、法的に有効な遺言書があれば、他の相続人の協力を得ること無く、不動産の名義変更(遺言による相続登記)がおこなえます。
ただし、配偶者、子、直系尊属など、兄弟姉妹を除く相続人には遺留分があります。そのため、遺言によって再婚後の妻子にすべての遺産を相続させようとしても、遺留分権利者(前妻との間の子供など)から遺留分減殺請求を受けることもあります。
それでも、何も対策をしておかないのに比べれば、遺言書を作成しておいた方がはるかに良い結果となる可能性が高いです。また、前妻との子供へ、最低限の遺留分を満たすだけの遺産を相続させる遺言をすることで、相続争いを未然に防ぐ方法も検討できます。
2-2.生前贈与の検討
遺産分割にともなうトラブルを未然に防ぐ方法として、再婚後の妻、または子に不動産などの財産を生前贈与することで、財産そのものを遺産分割の対象から外してしまう方法も考えられます。
相続対策として生前贈与をおこなったとすれば、それが遺産の前渡しであるとして、特別受益にあたるとも考えられます。そのため、前妻との間の子供から、そのような主張がなされると予想されるときには、あまり意味が無いかもしれません。
けれども、遺産分割の内容を巡っての争いが問題なのではなく、そもそも、遺産分割協議に応じてもらうこと自体が難しいと考えられるようなときには生前贈与が有効です。
極端にいえば、すべての財産を生前贈与してしまえば、遺産分割協議をおこなう必要すらないわけです。そこまでするのは現実的には無理としても、生前贈与と遺言を併用することで、遺産相続を巡るトラブルを防ぐことが期待できます。