妻、および2人の子供(長男、長女)が相続人である場合、それぞれの相続分は妻が4分の2、子は4分の1ずつです。法定相続分にしたがって円満に遺産相続ができるのであれば、遺言書を作成していなくてもとくに問題は生じないでしょう。
また、子たちがすでに結婚し独立しているような場合には、相続人間の合意により、妻がすべての財産を相続するとの遺産分割がおこなわれる場合も多いです。けれども、子たちが自らの相続分を主張してくることが予想される場合には、遺言書を作成しておく必要性があるかもしれません。
子が自分自身で積極的に主張することは無いとしても、配偶者などの声に押されて気持ちが変わることもあります。また、主な財産が自宅不動産だけという場合には、法定相続分どおりに相続しようと思っても、平等に遺産を分割するのは困難です。
このようなときにも、遺言書を作成をすることにより、法定相続分と異なる割合で相続させることが可能です。ただし、子には遺留分がありますから、遺留分を侵害するような遺言をした場合には、遺留分減殺の請求をされる恐れは残ります。
1.妻へ全てを相続させようとする場合
妻へ全ての遺産を相続させようとする場合には、次のような遺言をします。相続財産を特定して記載することももちろん可能ですが、1人の相続人に全ての遺産を相続させようとする場合には、「全ての財産を相続させる」というような書き方でも差し支えありません。
第○条 遺言者は、遺言書の有する一切の財産を、妻○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
なお、遺産の範囲を明確にするためには、できる限り相続財産を特定するのが望ましいです。しかし、遺言書を作成する時点で相続財産のすべてを特定するのは困難です。そこで、代表的な財産を挙げたうえで、「その他一切の財産を相続させる」と書くことも出来ます。
第○条 遺言者は、遺言書の有する下記の不動産その他一切の財産を、妻○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
記
所在 松戸市松戸本町
地番 100番地1
地目 宅地
地積 100.00平方メートル
このような書き方をしておけば、遺言により特定していない財産についても、妻に全て相続させることが可能です。ただし、遺産を特定するのであれば、その記載は正確におこなうべきです。たとえば、不動産であれば登記簿謄本(登記事項証明書)のとおりに書きます。
自筆証書遺言の場合、不動産の表示をすべて書くのは大変手間がかかりますし、誤りが生じる恐れも高いです。そこで、安心確実な遺言書を作成したいと考えるならば、公正証書遺言にするべきですし、最低限の備えとして自筆証書遺言を作成しておくならば、最初に示した「全ての財産を妻に相続させる」という書き方が無難でしょう。
2.妻および子に相続させようとする場合
妻だけに全財産を相続させるのではなく、長男、長女にも財産の一部を相続させようとする場合の例です。たとえば、長男、長女へは次のように銀行預金を相続させるとした上で、それ以外の財産はすべて妻へ相続させるとすることが考えられます。
第○条 遺言者は、遺言書の有する下記の不動産を、妻○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。
記
不動産の表示 (省略)
第○条 遺言者は、遺言書の有する下記預金債権を長男○に相続させる。
記
銀行預金の表示 (省略)
第○条 遺言者は、遺言者名義の下記預金債権を長女○に相続させる。
記
銀行預金の表示 (省略)
第○条 遺言書は、前3項に記載する財産を除く遺言書の有する不動産、動産、預貯金、現金その他一切の財産を、妻○に相続させる。
1つの銀行預金を、次の記載のように、複数の相続人に対してそれぞれ2分の1ずつなど割合を定めて相続させることも可能です。しかし、複数の銀行預金がある場合には、上記の記載のように、それぞれの銀行預金を特定の相続人に相続させるとしておく方が預金の解約手続きが簡単に済みます。
第○条 遺言者は、遺言書の有する下記預金債権を長男○に2分の1、長女○に2分の1の割合により相続させる。
記
銀行預金の表示 (省略)
3.遺留分を侵害する遺言
相続人には、被相続人の意思に関わらず、最低限の相続分を受け取る権利が与えられています。これが遺留分です。なお、兄弟姉妹が相続人となる場合には、その兄弟姉妹には遺留分がありません。したがって、遺留分がある相続人は、配偶者、子(またはその代襲相続人)、直系尊属です。
遺留分がある相続人についての、具体的な遺留分の割合は次のとおりです。
1.直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
2.それ以外の場合 被相続人の財産の2分の1
遺留分がある相続人が複数いる場合には、遺留分全体を法定相続分の割合によって分配します。したがって、このページのケースでは、子の遺留分は相続財産の8分の1となります。
遺留分を侵害する遺言をすることも差し支えありません。たとえば、「遺言書の有する一切の財産を、妻○○に相続させる」との遺言をすれば、子の遺留分を侵害することになりますが、そのような遺言も有効です。
ただし、遺留分を侵害されている子としては、遺留分相当の財産を自分引き渡すよう請求できます。これが、遺留分減殺請求(いりゅうぶん げんさい せいきゅう)です
4.遺留分減殺請求権の行使をしないよう求める付言事項
遺留分を侵害するような相続をさせる遺言をした場合、遺留分権利者に対して遺留分減殺請求権を行使しないよう求めることも考えられます。このような求めは付言事項にとどまり法的な拘束力はありませんが、遺言者の意思を明確にするという意味において有用かもしれません。
第○条 遺言者は、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使しないことを求める。
また、上記のような記載に加え、なぜ遺留分を侵害するような遺言をするのか理由を示すことによって、遺留分権利者の理解を得られることもあるでしょう。
(付言事項)
遺言者は、長男Aは収入が安定した定職に就いているのに対し、長女Bは高齢の妻Cと同居し、パート勤めをしながら、妻Cの身の回りの世話をしている。そのため、妻Cと長女Bに対しては万が一に備えて財産を残しておく必要があると考え、上記の通り遺言者の財産を相続させることとした。
遺言者は、長男Aが遺留分減殺請求権を放棄し、妻Cと長女Aを支えながら、家族仲良く暮らしていくことを希望するものである。
遺言書の作成例へもどる