司法書士は、家庭裁判所により選任される相続財産管理人、不在者財産管理人、遺言により指定される遺言執行者、また、当事者からの依頼による財産管理業務をおこなうことができます。その根拠は司法書士法第29条、および司法書士法施行規則31条によります。
司法書士法29条(司法書士法人の業務の範囲)
司法書士法人は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行うほか、定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。
一 法令等に基づきすべての司法書士が行うことができるものとして法務省令で定める業務の全部又は一部
二 簡裁訴訟代理等関係業務
2 簡裁訴訟代理等関係業務は、社員のうちに第3条第2項に規定する司法書士がある司法書士法人(司法書士会の会員であるものに限る。)に限り、行うことができる。
上記は司法書士法人の業務範囲について定めたものですが、すべての司法書士が行うことができる業務であることを前提としていますから、法人でない司法書士個人でも当然におこなえるものです。また、法務省令で定める業務とは、司法書士法施行規則第31条で定められている業務を指します。
(司法書士法人の業務の範囲)
司法書士法第29条第1項第1号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。
一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務
二 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務
三 司法書士又は司法書士法人の業務に関連する講演会の開催、出版物の刊行その他の教育及び普及の業務
四 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(平成18年法律第51号)第33条の2第1項に規定する特定業務
五 司法書士法第3条第1項第1号から第5号まで及び前各号に掲げる業務に附帯し、又は密接に関連する業務
上記の司法書士法施行規則第31条1号で「当事者その他関係人の依頼により、他人の財産の管理もしくは処分を行う業務」とあります。これにより、司法書士は「相続人からの委任に基づく任意相続財産管理業務」がおこなえるのです。具体的な例としては、銀行預金などの解約手続き、株式・投資信託などの名義変更手続き、生命保険金などの請求、不動産の任意売却などがあります。
これらの規定は平成14年の司法書士法改正にともなって新たにできたものです。同様の規定は弁護士法人の業務に関する省令にもありますが、その他の法律には存在しません。したがって、業として財産管理業務をおこなうことができるのは、司法書士と弁護士に限られるといってもよいでしょう。
ただし、司法書士がおこなえる財産管理業務は、事件性(紛争性)がないものに限られます(弁護士法第72条による制限)。したがって、財産管理業務としてご依頼いただいた後に、法的な紛争が生じることがほぼ不可避な状況となった場合には、業務を継続できなくなることもあります。