株式会社を設立する際には事前に検討すべき事項が多数あります。書式集やインターネット上の情報などを参考にして適当に決めてしまったことで、会社設立後すぐに変更登記が必要になるケースも見受けられます。下記を参考にしていただくと共に、会社法及び商業登記法のエキスパートである司法書士にぜひご相談ください。
株式会社設立時の決定事項 目次
株式会社を設立する際には事前に検討すべき事項が多数あります。書式集やインターネット上の情報などを参考にして適当に決めてしまったことで、会社設立後すぐに変更登記が必要になるケースも見受けられます。下記を参考にしていただくと共に、会社法及び商業登記法のエキスパートである司法書士にぜひご相談ください。
株式会社設立時の決定事項 目次
商号とは会社の名前(社名)のことです。会社商号は、次のルールに従って決定します。
「株式会社」の文字を使う
会社は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の種類に従って、その商号の中に「株式会社」などの文字を使わなければなりません。たとえば「株式会社松戸物産」、「柏商事株式会社」のようになります。なお、「株式会社」をカタカナやひらがなで表記することはできません。
会社の商号に使える文字
商号に使用できる文字は次のとおりです。
1. 漢字、ひらがな、カタカナ
2. ローマ字(A,B,C・・・ a,b,c・・・)
3. アラビヤ数字(1,2,3・・・)
4. 符号 アンパサンド(&) アポストロフィー(‘) コンマ(,) ハイフン(-) ピリオド(.) 中点(・)
なお、符号は、字句を区切る際の符号として使用する場合のみ使用できるので、商号の先頭又は末尾に用いることはできません(ただし、ピリオドについては、省略を表すものとして商号の末尾に用いることもできます)。
法律で使用が制限されている名称がある
たとえば、「銀行でない者は、その名称又は商号中に銀行であることを示す文字を使用してはならない」と銀行法で定められています。銀行業の他にも、保険業、信託業などの公益性の高い事業については、同様の制限があるものが多いです。この他にも法律で使用が制限されている名称がありますから、事前に確認する必要があります。
同一商号・同一本店の会社商号の禁止
既存の会社と同一の商号を、その会社と同一の場所に登記することはできません。つまり、商号、本店がともに同一の会社が2つ存在することはできないということです。
上記に該当しなければ、同一商号の会社を、既存の会社のすぐ近くに設立することも可能です。たとえば、「松戸市本町」と、「松戸市新松戸」に、同一商号の会社商号を登記することもできますし、極端にいえば番地が一つ違えば登記はできるわけです。
かつては、既存の会社と目的が同じで、商号が同一、または類似する会社を、同じ市区町村内で登記することはできませんでした(類似商号の禁止)。たとえば、千葉県松戸市に不動産業を営む「柏興産株式会社」が既にある場合、後から、松戸市内で同一商号を登記することはできませんし、商号が類似すると考えられる「柏興業株式会社」を登記することもできなかったのです。
それが、平成18年5月に会社法が施行されたことにより、同一商号・同一本店を除いては、自由に商号を選択できるようになったのです。
(参考)商業登記法 第27条
商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。
会社の目的を定める際には、「明確性」、「適法性」、「営利性」の3点が求められます。
まず、「明確性」とは、一般人において理解可能な日本語であることが必要です。外国語をそのまま使ったり、ある業界だけで使われている専門用語を用いようとするときに問題になることが多いです。
明確性があるかどうかの判断は、登記実務上、国語辞典(広辞苑など)、現代用語辞典(現代用語の基礎知識など)に、その語句についての説明があるかなどにより行われています。
適法性については、そもそも違法である事業を目的として定めることができないのは当然ですが、他にも、たとえば「法律相談業務」や「登記申請書の作成」といった目的は、弁護士法や司法書士法違反になるため使用できません。
さらに、会社は営利を追求する法人ですから、利益を上げる可能性のない事業は「営利性」が無いと判断されることがあります。たとえば、「政治献金」、「社会福祉への出資」、「永勤退職従業員の扶助」が登記不可とされた事例があります。
事業を行うにあたって許認可申請が必要な場合には、会社の目的にその事業についての記載が求められることがあります。たとえば、次のような事業を行う場合です。
会社の目的は、明確性、適法性、営利性を満たしていればどのように定めても差し支えないのですが、通常は、「飲食店の経営」、「自動車の販売」など一見して具体的な事業内容が分かるように定めます。
しかし、「商業」、「適法な一切の事業」のように包括的、抽象的なものであっても、会社の目的として定款に定め、登記することは可能です。したがって、会社目的として「適法な一切の事業」とだけ定めておけば、許認可申請が必要な場合を除いては、目的変更をすること無くどんな事業でも行えることになります。
しかしながら、定款および登記事項証明書に記載されている会社目的が「商業」だけでは、具体的な事業内容が分かりません。そのため、他の企業や、金融機関と新たに取引を開始しようとする場合に問題になることも考えられます。
具体的に何をしているのかが伺い知れない会社との、取引を避けようとするのは当然のことだとも言えます。そこで、どうしても「商業」、「適法な一切の事業」のような会社目的を定めようとする場合であっても、具体的な目的も同時に定めておくのが良いかもしれません。
また、事業を行うにあたって許認可申請が必要なときには、会社の目的にその事業についての記載が求められることがあるのは上記のとおりです。したがって、この場合には「労働者派遣事業」など具体的な目的を定める必要があります。
なお、かつて会社の商号には「具体性」が求められていました。したがって、「商業」との目的が認められないのは当然として、「レジャー用品の販売」、「化学製品等の製造」なども、具体性がないとされ登記が出来ませんでした。それが、会社法の施行と共に、具体性の要件は不要となったのです。
かつて、会社を設立するには株式会社では1,000万円、有限会社ならば300万円の資本金が必要でした。それが、平成18年5月に会社法が施行されたことにより、株式会社の資本金についての制限は一切無くなり、同時に、新たに有限会社を設立することはできなくなりました。
そのため、例外はありますが、長い期間営業を続けている株式会社では、資本金が1,000万円以上の場合が多いのです。会社の資本金は、登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されますから、取引先の目にも触れることとなります。よって、資本金があまりにも少額な場合、対外的な信用を得るのに問題が生じるかも知れません。
会社設立後に、資本金を増やす(増資)ことも可能ですが、費用も手間もかかります。よって、会社を設立する時点で、最低でも100万円、可能であれば、かつて有限会社の最低資本金であった300万円位にするのが望ましいと思われます。
資本金は、会社設立時に出資者(発起人)により払い込まれるものですが、会社設立後もそのまま別会計で保管しておかなければならないものではありません。つまり、会社の設立が完了した後は、資本金として払い込まれたお金を会社の営業のために利用できるわけです。よって、当面の運転資金を事前に準備するという意味からしても、ある程度の資本金が存在するのが通常でしょう。
ただし、株式会社を設立するのが対外的な信用を得ることを主目的とするわけではなく、業務の都合上、会社組織(法人)であることが必要だからというような場合や、運転資金があまりかからない会社である場合にはこの限りではありません。たとえば、資本金が1万円の株式会社であっても何ら問題はないわけです。
取締役は最低1名いれば何人でも構いません。また、監査役は置かなくても結構です。自分ひとりが出資者となり会社を運営していくのであれば、会社設立にあたって、他人を会社役員にする必要はありませんから、取締役は1名で良いと考えられます。その場合、監査役ももちろん不要です。複数の取締役を置くのは、複数の人が集まり、それぞれが出資をして会社を設立、運営する場合に限られるのが通常でしょう。
かつては、株式会社設立には最低3名以上の取締役と1名の監査役が必要でした。一方、有限会社では取締役1名のみで設立が可能で、最低資本金も少額だったため、少人数・小資本による起業においては有限会社が有力な選択肢でした。
会社法が施行されたことで、あらたに有限会社を設立することはできなくなりましたが、これは有限会社が消滅したというよりは、株式会社の枠組みのなかに、以前の有限会社的な株式会社が組み込まれるようになったと捉えるべきです。つまり、かつての有限会社に代わるのが、取締役会を設置しない株式会社であるといえます。
また、株式会社と有限会社のどちらかを選択する際、出資するのも経営を行うのも自分ひとりだから、ほんとうは有限会社で良いのだけれども、会社形態による信用度を考慮して株式会社を選択するというケースが多くありました。このような場合、家族や知人をを名前だけの役員にすることが良く見受けられましたが、現在では、このような無駄、かつ弊害が生じる可能性がある行為は不要になったのです。
取締役の任期は2年が原則ですが、株式譲渡制限会社では、最大10年まで延長することができます。
取締役の任期が満了すると、新たな取締役を株主総会で選任し、取締役変更登記をしなければなりません。これは、取締役に交代がある場合だけでなく、同一人が続けて取締役になる場合も同じです。
取締役の任期が2年だとすれば、取締役の変更登記も2年に1度する必要があります。会社設立以来ずっと同じ人が取締役だったとしても、任期が満了するごとに役員変更登記が必要なのです。
しかし、株式譲渡制限会社では、定款に定めることによって最大10年まで取締役の任期を延長することができるので、登記手続きの頻度を減らすことが可能です。
ただし、いったん取締役を選任してしまえば、任期中に辞めさせるには、自ら辞任するのでなければ、株主総会の決議で解任するしかありません。そのため、オーナー社長である自分自身や、家族以外の人を取締役にする場合には注意が必要です。任期の途中で取締役を解任すれば、任期満了までの役員報酬を損害賠償として請求されることも考えられるからです。
株式譲渡制限会社とは(参考)
株式の譲渡制限とは、所有する株式を他人に譲渡しようとする際には会社の承認を得なければならないとするものです。この制度は「株式の譲渡制限に関する規定」を定款に定め、登記をすることで有効になります。
会社にとって好ましくない者が株式を手に入れてしまうのを防ぐため、証券取引場等に株式を上場している会社を除けば、大部分の会社でこの規定を置いています。この譲渡制限は全ての株式に付けることもできますし、一部の株式のみの譲渡を制限することも可能です。また、株式の譲渡を承認するのは、原則として取締役会を置いている会社の場合は取締役会、そうでない会社の場合は株主総会ですが、定款に定めることでそれ以外の機関、たとえば代表取締役とすることもできます。なお、全ての株式に譲渡制限がついている会社を株式譲渡制限会社、または非公開会社といいます。